【脳卒中リハビリ】膝は曲がるのに、歩きが変わらない?

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。

今回のテーマは「膝は曲がるのに、なぜ滑らかに歩けないのか?」です。

患者様
膝は曲がるのに歩くと突っ張る
患者様
リハビリでは膝は動くのに、実際の歩行ではうまく使えない

脳卒中を経験された方の中には このような違和感を抱える方も多くいらっしゃいます。

これらの原因は筋力や可動域の問題だけではなく、膝の動かし方そのものに潜んでいるかもしれません。

今回紹介する2024年の研究は、膝の動作スピード(FROM)と感覚(JPS)が歩行や立ち上がりにどう関係するかを明らかにしたものです。

【脳卒中リハビリ】膝は曲がるのに、歩き方が変わらない?

参考文献

今回の論文は2024年に発表された論文です。

Importance of the assessment of knee joint function after a stroke. Acta Bioeng Biomech. 2024.Wareńczak-Pawlicka A, et al.

研究の概要

対象者

  • 脳卒中後の患者25名
  • 健常者25名(平均年齢は両群でほぼ同じ)

評価項目

  • PROM(他動可動域)
  • AROM(任意速度での自動可動域)
  • FROM(最大速度での自動屈曲)
  • JPS(関節位置覚:角度の再現)
  • TUG(立ち上がって3m先まで歩いて戻る時間)
  • FTSST(椅子から5回連続で立ち上がる時間)

※評価は15日間の標準的なリハビリ介入の前後で実施されました。

研究の結果

  1. PROM・AROM・JPSは明確に改善し、健常者との差もほとんどなくなった
  2. FROM(膝の最大速度での屈曲)は改善してもなお健常者より有意に遅かった
  3. AROMやFROMの改善度と、TUG/FTSSTの成績(タイム短縮)には強い相関が見られた

このことから、「どれだけ膝が曲がるか」だけでなくどれだけ速く、正確に動かせるか」が、歩行や立ち上がりといった日常動作の質に強く影響していることがわかりました。

SKG(スティッフニーゲイト)との関連

SKG(スティッフニーゲイト)とは、歩行中に麻痺側が十分に曲がらず、突っ張ったまま振り出される状態を指します。

本研究はSKGを直接対象にしていませんが、「膝が出にくい・反応が遅い」といったSKGの特徴と多くの共通点があります。

特に振り出し(Swing)初期に必要な瞬間的な屈曲が起こりにくい場合、FROM(膝の最大速度での屈曲)の向上はSKG改善にも通じる重要なカギといえます。

リハビリへの応用

膝関節機能を高めるには、「角度・速さ・感覚」の3つをそれぞれ分けて評価・訓練することが重要です。

角度:そもそも膝が曲がらないなら、可動域を出す訓練が必要

感覚:動かせるのにうまく使えない場合は、関節位置覚(JPS)へのアプローチが有効

速さ:角度も感覚もあるのに、滑らかに歩けない場合は、FROM(膝の最大速度での屈曲)を高める訓練が重要

 

つまり、「膝が動かないなら角度」「うまく動かせないなら感覚」「滑らかさがないなら速さ」と整理することで、効率よくリハビリの焦点を定めることができます。

 

リハビリのポイント

JPS(関節位置覚)は積極的に鍛えるべき!

  1. 目を閉じ膝の角度を再現する練習(角度再現課題)
  2. ミラーを使い「感じる→動かす」感覚を高める練習
  3. 片脚立ちや軽度スクワットで位置意識トレーニング

FROM(速さ)を高める練習を!

歩行中の膝屈曲をスムーズにするには、反射的かつ爆発的な動作が必要
  1. うつ伏せや立位でリズムよく素早く膝を曲げる練習
  2. メトロノームに合わせたステップ練習
  3. ジャンプ反応を応用した股関節と膝関節の屈曲練習(以下に例を3つ示します)

麻痺側の足を段差に乗せ、非麻痺側で床を軽くトンと踏む

  • 目的:反動で麻痺側の膝が自然に引き上がる感覚を促す。

麻痺側の足を段差に乗せ、非麻痺側で床を横方向に強く踏み込んで着地する

  • 目的:麻痺側が段差から跳ね上がるように持ち上がり、瞬間的な膝屈曲を引き出す。

左右の足を交互に軽くステップしながら切り替える練習(スキップ動作)

  • 目的:屈曲と伸展のスイッチ感覚、歩行中のタイミングの獲得につなげる。

おわりに

「膝は曲がる。でも歩けない」
その理由は角度ではなく速さと感覚にあるのかもしれません。

今回の研究は、「動けることと、使えること」の違いを改めて教えてくれます。

このコラムが、当事者の皆様にとって「前より少し動きやすくなった」と感じるきっかけとなり、セラピストにとっては「次に伸ばすべき機能は何か」を見極めるヒントとなれば幸いです。

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