【脳卒中リハビリ】つま先接地と踵接地で膝のしなやかさはどう変わる?

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。 今回のテーマは足の着き方で歩行は変わる?」です。

患者様
歩くたびに膝が棒のように固まってしまう
 
患者様
つま先からしか着けなくて、前に進むのが怖い

脳卒中を経験された方の中には このように足の着き方が原因で、「膝がうまく曲がらない」「歩行がぎこちない」という悩みを抱える方も多くいらっしゃいます。 

今回は2025年に発表された研究をもとに、膝のしなやかさを取り戻すために必要なことを紹介します。

【脳卒中リハビリ】つま先接地と踵接地で膝のしなやかさはどう変わる?

参考文献

今回の論文は2025年1月に発表された論文です。

Initial Contact with Forefoot or Rearfoot in Spastic Patients After Stroke—Three-Dimensional Gait Analysis Inês Mendes-Andrade, et al.

研究の目的

臨床では「歩行は踵から着いた方が安定する」と言われてきました。しかしそれは経験則にとどまり、なぜ安定するのかを客観的に示すデータは不足していました。

そこで本研究は、つま先(前足部)接地と踵(後足部)接地で歩行にどのような違いがあるのかを、3D歩行分析と筋電図で明らかにすることを目的としました。

研究の概要

対象者

  • 慢性期脳卒中の方34名(平均年齢49.7歳)

つま先(前足部)接地:17名

踵(後足部)接地:17名

測定方法

裸足で10m歩行を計測

評価項目

  • 歩行速度(1秒あたりにどれくらい進むか(m/s))
  • ケイデンス(1分間に踏み出す歩数(歩/分))
  • 支持時間(片脚で立っていられる時間(立脚期の安定性を示す))
  • 膝関節と足首の曲がり方や動きのパターン
  • ふくらはぎの筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋)の働き

研究の結果

この研究ではつま先(前足部)接地と踵(後足部)接地での歩行の違いが検証され、以下のことが示唆されました。

つま先(前足部)接地 

  • 初期接地で足首が曲がらず(底屈が強く)、膝がピンと伸びすぎる(過伸展)
  • 足を振り出す際に膝が曲がらず、代償として腰を振る・体幹を持ち上げる動きが増える
  • 歩行効率が低下し、速度も遅い傾向

(※ただし、歩行速度については 踵接地群が速い傾向を示したものの、統計的有意差には達しませんでした。)

踵(後足部)接地

  • ケイデンスが高く、歩行テンポが速い
  • 単脚支持時間が長く、安定して立てる
  • 膝屈曲が出やすく、膝ロックを防げる
  • 遊脚期に足首の背屈が確保され、つまずきにくい

さらに筋電図解析では、腓腹筋の異常な活動(痙縮)があっても、踵接地群は立脚後期の足関節パワーが大きく、推進力を獲得できていたことが示されました。

リハビリへの応用

この研究では、踵接地の方は 膝屈曲と足関節背屈(つま先の上がり)がしっかり出ていたことが明らかになりました。

つまり、踵から着けることは、膝と足首の動きが自然にかみ合っている状態の目安といえ、臨床では次のような練習が考えられます。

しなやかな膝を取り戻す3つのステップ 

膝を軽く曲げたまま支える練習

片脚立ちでピンと伸ばさず「膝をわずかに曲げて支える」感覚をつかむ。 

踵重心スクワット

壁に手をついて、踵に体重を残しながら軽くしゃがむ。ふくらはぎの過活動を抑え、踵接地の準備を整える。

小歩行でのつま先クリアランス練習

歩幅を小さくして前進しながら「足先を上げる→踵で着く」を繰り返し、遊脚期の背屈(振り出しの際のつま先の上がり)を習得する。

おわりに

この研究の新しさは、「踵接地が良い」という発見ではありません。
臨床で当たり前に言われてきたことを、膝の屈曲・足関節背屈・単脚支持時間・推進力といった具体的なデータで裏付けた点に価値があります。

また、こうした歩行分析はリハビリ練習だけでなく、装具の調整やボツリヌス治療、外科的介入の判断にも役立つ可能性があります。

このコラムが、明日からのしなやかな歩行につながれば幸いです。

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