【脳卒中リハビリ】歩きにくさの原因は”歩行のズレ”にある!

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。

今回のテーマは「どのタイミングで歩行のズレが起こるのか?」です。

患者様
歩いていると、どうしてもうまく足が出ない
患者様
膝が伸びすぎたり、足が引っ掛かったりして怖い

脳卒中を経験された方の中には 「歩きにくさ」 に悩まれている方も多くいらっしゃいます。

これまでの研究では歩行の速さや歩幅といった全体的な指標に着目することが多かったのですが、今回の研究では統計的パラメトリックマッピング(SPM) という高度な解析手法を用い、歩行の「どのタイミングで」「どの関節に」「どのような左右差が生じているのか?」 を詳細に分析し、そのズレを修正することが重要であると示されています。

今回は、2025年に発表された最新の研究をもとに、脳卒中後の歩行のズレ(歩行の非対称性)がどのように生じるのかを解説し、改善に向けたリハビリの方法を紹介します。

【脳卒中リハビリ】歩きにくさの原因は”歩行のズレ”にある

参考文献

今回の論文は2025年1月に発表された論文です。

Quantifying Gait Asymmetry in Stroke Patients: A Statistical Parametric Mapping (SPM) Approach. Jinwoo Park et al. Med Sci Monit.2025

研究の背景

脳卒中後の歩行では、麻痺側と非麻痺側の動きにズレが生じることでバランスが崩れます

これにより歩幅が狭くなったり、膝が伸びすぎたり、足が引っかかったりするなどさまざまな歩行の問題が発生します。

従来の研究では、歩行速度や歩幅のような時間的・空間的な指標を中心に分析されてきましたが、歩行のどの瞬間にズレ(非対称性)が生じているのかを明確にすることは難しいとされてきました。

そこで本研究では、統計的パラメトリックマッピング(SPM) という新しい手法を用いて、歩行周期全体を連続的に分析し、どの関節がどのタイミングでズレているのかを詳細に調査しました。

研究の目的

この研究の目的は、脳卒中後の歩行における非対称性を歩行周期全体で定量的に評価し、麻痺側と非麻痺側の関節角度の違いと、非対称性が顕著になるタイミングを明らかにすることです。

その結果、歩行の中でも特に3つの場面で左右の動きに大きなズレがあることがわかりました。

  1. 足をついた瞬間(歩き始めの一歩目)
    麻痺側の股関節の曲がりが足りず、体重を乗せるタイミングが遅れる。
  2. 片足で体を支えるとき(歩いている最中に片足になる瞬間)
    麻痺側の膝が必要以上に伸びてしまい、次の一歩が出しにくくなる。
  3. 足を前に振り出すとき(次の一歩を出す動作)
    麻痺側の膝が十分に曲がらず、足が引っかかりやすくなる。

研究の概要

対象者

  • 慢性期脳卒中の患者20名

解析手法

  • VICONモーションキャプチャシステムを用いた三次元動作解析
  • 統計的パラメトリックマッピング(SPM)によるデータ解析

分析対象

  • 股関節・膝関節・足関節の動きを、矢状面(前後方向)、前額面(左右方向)、水平面(回旋方向) の3つの面で比較

研究の結果

この研究より以下のことが示唆されました。

足をついた瞬間(歩き始めの一歩目):麻痺側の股関節が曲がりにくい

麻痺側の股関節の屈曲角度が非麻痺側よりも小さい(P<0.001)
その影響で麻痺側への体重移動が遅れ、非麻痺側への重心移動が速くなってしまう。

片足で体を支えるとき(歩いている最中に片足になる瞬間):膝が伸びすぎる(反張膝)

麻痺側の膝が、非麻痺側よりも伸びすぎる(P<0.05)
これにより、膝が「ロック」したようになり、次の一歩が出しにくくなる。

足を振り出すとき(スイング期):膝が曲がりにくい

麻痺側の膝の曲がりが足りず、足がスムーズに前に出ない(P<0.001)
その結果、つま先が上がらず引っ掛かりやすくなる。

リハビリへの応用

この研究から得られた知見を活かし、リハビリでは次のような具体的な方法を取り入れることが有効だと考えられます。

足をついた瞬間のズレ(歩き始めの一歩目): 麻痺側への体重移動をスムーズにする練習

方法

  1. ステップ練習:麻痺側の足を前に出し、非麻痺側で支えながらゆっくり体重を移動する。手すりや壁を使いながら、安全に行う。
  2. 段差昇降:低めの段差(5〜10cm程度)を使い、麻痺側の足からゆっくり昇り降りする。バランスを崩さないように手すりを使用する。

ポイント

  • 膝が過剰に伸びすぎないように、軽く曲げた状態で体重を乗せる。
  • 速さよりも、麻痺側に体重を乗せることを意識する。

片足で体を支えるときのズレ(歩いている最中に片足になる瞬間):膝の安定と柔軟性を高める練習

方法

  1. スクワット(浅め):膝が反張しないように軽く曲げた状態で、ゆっくり腰を落とす。初めは椅子に座る動作を繰り返す形でもOK。
  2. 片足立ち:手すりや壁に軽く手をつきながら、麻痺側の足で支える練習をする。最初は5秒キープし、慣れたら時間を伸ばす。

ポイント
膝が必要以上に伸びすぎないように、股関節と膝を適度に曲げた状態で体を支える。
初めは手すり等を使いながら行い、バランスを崩さないように注意する。

足を前に振り出すときのズレ(次の一歩を出す動作):足が振り出しやすくなる練習

方法

  1. 膝を曲げる練習:麻痺側の足を軽く持ち上げ、膝を曲げる動作を繰り返す。椅子に座った状態で、足を持ち上げる練習から始めても良い。
  2. リズム歩行:メトロノームや音楽を使い、一定のリズムで足を出す練習を行う。リズムに合わせることで、動きがスムーズになりやすい。

ポイント
足を引きずらないように、膝を曲げて振り出すことを意識する。
初めは手すり等を使いながら行い、徐々に支えなしでできるようにする。

おわりに

脳卒中後の歩行改善には、歩幅や歩行速度だけでなく、「歩行のどの瞬間で、どのようなズレが起きているのか?」を正しく把握することが重要です。

本研究では、SPMという高度な解析手法を用いて、歩行周期全体を通じた関節の動きを連続的に解析し、どのタイミングでズレ(歩行の非対称性)が強くなるのかを特定しました。

この知見を活かし、まずは「歩く」ではなく「歩行のどの瞬間のズレが問題なのか?」を意識したトレーニングからはじめてみましょう。リハビリは焦らず、正しい姿勢と動きを意識しながら行うことが効果的なので「できる動作」から始めて、徐々に難易度を上げることが継続のカギです。

この情報が、日々のリハビリや歩行改善のヒントになれば幸いです。

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