【脳卒中リハビリ】歩くときに膝が曲がらないのは、蹴る力が足りないから?

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。 今回のテーマは地面を蹴れる足を作る!です。

患者様
歩くとき、膝が全然曲がらないんです
患者様
足が棒みたいになって前に出ません…

脳卒中を経験された方の中には このような悩みを抱える方も多くいらっしゃいます。 

専門的には「SKG(Stiff Knee Gait:スティッフニーゲイト)」と呼ばれ、膝がうまく曲がらないために、つまずきやすくなったり、歩幅が狭くなったりする状態です。

よく「太ももの筋肉(大腿直筋)の緊張が原因」とされますが、近年の研究では、それだけでは説明のつかないケースが多くあることが明らかになってきました。

膝が曲がらない背景には、別の力学的要因が関わっている可能性が示されています。

【脳卒中リハビリ】歩くときに膝が曲がらないのは、蹴る力が足りないから?

参考文献

今回の論文は2025年6月に発表された論文です。

Towards a precision rehabilitation approach for post-stroke stiff knee gait. Bente E.Bloks, et al.

研究の目的

この研究は、SKGの原因が「膝を曲げる力そのものの問題」ではなく、「地面を蹴る力の不足」にあるのではないか?という仮説のもとに行われました。

特に、地面から足が離れる直前(プレスイング期)のパワー出力と膝屈曲の関係に注目しています。

研究の概要

対象者

  • SKGを呈する脳卒中後の方122名

測定方法

三次元歩行分析(モーションキャプチャ+床反力計)

評価項目

地面から足が離れる直前(プレスイング期)の筋出力(Power)、特に以下の仕事量に着目

  • 足関節の蹴り出し(ふくらはぎの筋肉:ヒラメ筋・腓腹筋)
  • 股関節の引き上げ(腸腰筋・縫工筋)

分析方法

  • 膝屈曲角度のばらつき(標準偏差)と「蹴る力」との相関
  • 蹴る力が膝の動きをどれだけ説明できるかを評価(重回帰分析)

研究の結果

この研究により、スティッフニー歩行には少なくとも以下の2つのタイプがあることが示唆されます。

膝が曲がらないのは、しっかり蹴れていない

全体の約65%(79名)では、蹴る力の低下が膝の動きと強く関連

痙縮・協調障害・筋短縮など、他の神経筋要因が関与している可能性

一方で約18%(22名)は、蹴る力との関連は見られず
  

リハビリへの応用

今回の研究結果を踏まえ、2つのタイプに合わせたリハビリとして以下のような方法が考えられます。

 

タイプ別の見極めとリハビリ戦略 

蹴り出し不足タイプ(約65%

膝が曲がらない原因が、「蹴る力の不足」にあるタイプ。

足を前に出すには、実はその前に「地面を蹴る準備(推進)」が必要ですが、この準備動作=立脚後期の使い方が弱く、振り出しの助走が足りていない状態です。

見分けるポイント

  • 歩行中、地面を蹴ってる感覚がない(小さい)
  • 膝は硬くないが、前に出にくい
  • 麻痺側の踵荷重が長く残り、母趾(親指)までしっかり蹴れない
  • 立ち上がりや階段でも、「踏ん張って蹴る」動作が苦手

 

リハビリ戦略:「蹴る準備」をつくることが最優先

①前後の体重移動練習

  • 踵から母趾へ体重移動

「後ろに蹴る準備」を身体に思い出させる

②お尻上げ+踵ツボ刺激

ベッドや座位で、お尻を持ち上げながら踵に刺激を入れる

「ここで蹴るんだ!」という感覚を再構築

③ふくらはぎの筋肉(ヒラメ筋・腓腹筋)で蹴り出し

踵をポンッと弾ませ、ふくらはぎの反応を引き出す

地面を蹴ることを意識する

 

臨床でよく行われる膝屈曲だけを狙って立位で膝裏を持ち上げる練習ばかりすると、本来必要な「蹴り出し感覚」が抜けてしまい、むしろ振り出しの不安定さが増すこともあります。ポイントは「膝を曲げるではなく蹴る」です。

 

痙縮が強いタイプ(約18%)

膝がロックされたように動かず、太ももの前の筋肉(大腿直筋)が過剰に緊張しているタイプ。動かしたいのに、力が入りすぎて邪魔してしまう状態です。

見分けるポイント

  • 膝がカチッと固定されたように感じる
  • 振り出しで足が地面に引っかかる
  • 立っているとき、太もも前がガチガチに張る
  • ゆっくり歩こうとするとかえって難しい

 

リハビリ戦略:スクワットで「力み」を抜き、膝にゆとりをつくる

①壁スクワット(フォーム習得と脱力)

  • 壁にもたれて、背中を預けたまま、軽く膝を曲げる練習

膝を支点に「太ももの前に力を入れずに体を沈める」感覚を掴む

②両足スクワット(重力下でのコントロール)

  • 上体をやや前傾させ、太ももではなく股関節とお尻を使ってしゃがむ

足裏全体、特にかかとと母趾球で支える感覚を養う

③片足スクワット(振り出し筋の再活性化)

  • 麻痺側足を前に軽く出し、非麻痺側でスクワット動作

非麻痺側の股関節伸展による(クロスエクステンション)反応で、麻痺側の股関節屈曲+膝屈曲反応が引き出されやすくなる

 

補足(ボトックス注射について)

  • 明らかに太もも(大腿)前面の緊張が強すぎる場合には、ボトックス(ボツリヌス注射)も有効です。
  • ただし、薬で力みを抜くだけでは不十分。その後の再学習(上記のような運動)で動ける身体に変えていくことが大切です。
力みを抜くには、「脱力しやすい姿勢」で「正しい動き」を体に思い出させることが大切です。ストレッチや薬だけでなく、動作の中でのリセットを目指しましょう。

おわりに

「膝が曲がらないから、太もも前の緊張を抑えよう」その対応は間違っていません。でもそれだけでは足りないのかもしれません。

この研究はSKGの背景にある「蹴る準備の失敗」に焦点を当て、リハビリで見直すべきポイントが膝ではなく足にある可能性を教えてくれます。

しなやかな振り出しは、しっかりとした「蹴り出しから。

まずは地面を蹴れる足を作ること。それが、柔らかく曲がる膝の獲得に向けた第一歩になれば幸いです。

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