【脳卒中リハビリ】膝が曲がらないのは、膝のせいじゃないー最新研究が示す「歩行再建の新視点」ー

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。 今回のテーマは膝が曲がらない歩行の正体!です。

患者様
足が重たくて、振り出すたびに引っ掛かる感じがします
患者様
歩くたびに足が棒みたいなる…

脳卒中を経験された方の中には このような悩みを抱える方も多くいらっしゃいます。

専門的には「SKG(Stiff Knee Gait:スティッフニーゲイト)」と呼ばれ、「太ももの筋肉(大腿直筋)の緊張が原因」と言われていました。

しかし、実はそれだけではなく、神経の反射筋の働き動作の流れがうまくかみ合わさっていないことも原因の一因であるということが分かってきました。

【脳卒中リハビリ】膝が曲がらないのは、膝のせいじゃないー最新研究が示す「歩行再建の新視点」ー

参考文献

今回の論文は2025年7月に発表された論文です。

Mechanisms of Post-Stroke Stiff Knee Gait: A Narrative Review.Kellen T. Krajewski, et al.

研究の概要

この研究は、脳卒中後に膝が曲がらなくなる歩行(SKG)の原因を、過去の歩行分析や筋電研究をもとに整理した叙述的レビュー(Narrative Review)です。

単なる筋の硬さではなく、神経反射・筋の連動・地面を蹴る力など、複数の要因を総合的に示しています。

対象者

  • 脳卒中後に歩行中の膝屈曲が減少している方(SKG)を対象とした既存の臨床研究・歩行分析・筋電研究などを整理

測定方法

  1. 三次元歩行分析(モーションキャプチャ+床反力計):膝角度・速度・地面を押す力(推進力)を測定
  2. 筋電図(EMG):太もも前・ハムストリングス・お尻・ふくらはぎの活動タイミングを解析
  3. 反射テスト(H反射など):筋の過剰反応(反射亢進)の有無を評価
  4. 筋シナジー分析:筋群の連携(協調性)を分析
  5. 筋量・筋質評価:筋萎縮や脂肪化を確認

評価項目

  • 膝屈曲角度
  • 筋活動のタイミング
  • 地面を蹴る力(推進力)
  • 筋群の連携(協調性)

分析方法

  • 得られた結果をもとに、SKGの要因を①反射亢進 ②筋緊張異常 ③協調性の破綻 ④推進力低下の4つに分類

研究の結果

この研究により、SKGには4つのタイプがあることが示唆されます。

大腿四頭筋の反射亢進タイプ

股関節が後ろに動く瞬間に太もも前(大腿直筋)が勝手に反応して膝を伸ばしてしまう(振り出したくても膝がブレーキをかけてしまう)

異常な筋トーンタイプ

膝まわりが常に力んでおり、動かそうとしても力が抜けない(動作が固まって見える)

協調性の破綻タイプ

「体重を移す→地面を押す→足が前に出る」この流れが乱れ、足の動きと体の動きが噛み合わない

推進力の低下タイプ

ふくらはぎやお尻の筋肉(下腿三頭筋・大殿筋)が弱くなり、地面を押す力が不する

その結果、膝を曲げる勢いが生まれず、足が前に出にくくなります研究では、全体の約85%がこの推進力低下と関連していました。

リハビリへの応用

今回の研究結果を踏まえ、4つのタイプに合わせたリハビリとして以下のような方法が考えられます。

  タイプ別の見極めとリハビリ戦略 

大腿四頭筋の反射亢進タイプ

膝の動きを止めてしまう反射的な力みを抑えること

スクワット動作:浅めに腰を落としながら、3秒で曲げ、3秒で戻すテンポ

ポイント

  • お尻と足裏全体で支え、太もも前(大腿直筋)を使わずに膝を動かす感覚を育てる。

異常な筋トーンタイプ

膝を伸ばす筋肉の持続的な力みをリセットすること

壁スクワット:壁にもたれて背中を預け軽く膝を曲げる

ポイント

  • 抜くのではなく支える場所を変える。つまり、太もも前ではなくお尻で体を支えるように意識
  • 背中を壁に預けると、太ももの過剰緊張が抜けやすい。

協調性の破綻タイプ

身体と足のタイミングを合わせ、動作の流れを再構築すること

足裏の体重移動:手すりや壁に手を添え、「かかと→つま先」への体重移動

ポイント

  • つま先に体重を移すと同時に地面を押す感覚を感じる。

推進力の低下タイプ

地面を押す力(推進力)を取り戻し、膝が自然に曲がる助走をつくること

ステップ練習:立位で、かかと→つま先へ体重を移し、軽く後ろへ押し出す

ポイント

  • ふくらはぎ(ヒラメ筋・腓腹筋)とお尻(大殿筋)で「蹴る」より「押す」を意識し、足裏で床を長く押し続ける。
  • 押した反動で、股関節屈曲筋(腸腰筋)を自然に働かせる。

おわりに

膝が曲がらない歩行(SKG)は、太ももの硬さだけが原因ではありません。反射・筋緊張・協調性・推進力など複数の要因が重なって起こります。リハビリでは、膝そのものではなく、流れ・蹴り出し・タイミングを整えることが重要です。

しなやかな膝の動きは、蹴り出せる足自然に引き出される股関節屈曲から生まれます。膝を動かすのではなく、動きの流れに身をゆだねることです。

この研究が、日々のリハビリのヒントになれば幸いです。

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