この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。 今回のテーマは「歩く時に膝が曲がらない理由はどちらにあるのか?」です。 脳卒中を経験された方の中には以下のような症状を抱えている方が多くいらっしゃいます。
これらの症状は、Stiff Knee Gait (SKG) と呼ばれる歩行障害の一つです。この症状の原因として以下の2つが考えられます。
- 膝を伸ばす筋肉(外側広筋、大腿直筋)が過剰に働いている場合
- ふくらはぎ(足関節底屈筋群)の筋力が弱くて地面を押し出せない場合
今回は2022年に発表された論文をもとに、曲がらない膝(SKG)の原因を特定する方法とリハビリの方向性を解説していきます。このコラムを通じて、日々「曲がらない膝」に悩まれている当事者の皆様や医療従事者の方のリハビリに役立てていただけたら幸いです。
【脳卒中リハビリ】歩くときに膝が曲がらない本当の理由は……強すぎる太もも??弱すぎるふくらはぎ??
参考文献
今回の論文は2022年に「Gait&Posture」誌に発表された論文です。
研究の目的
この研究では、足を持ち上げて前に出すタイミング(立脚後期から遊脚初期)で膝が曲がらなくなる原因を明らかにすることを目的としています。
研究の概要
対象者
慢性期脳卒中の方38名(40~75歳)
評価内容
- 膝屈曲角度:足を持ち上げて前に出すタイミングで、膝がどの程度曲がるのかを記録(動作解析システム使用)。
- 足関節の底屈角速度:つま先で地面を押し出す(プッシュオフ)の強さを測定。
- 膝伸筋の筋活動量:外側広筋や大腿直筋が過剰に働いていないかを評価(筋電図:EMG使用)。
研究結果
この研究から以下の2つのグループに分類されました。
膝伸筋活動が高いグループ(高PC2群)
- 膝屈曲角度と外側広筋の活動量に負の相関(r=-0.72)が確認されました。
- 外側広筋(膝を伸ばす筋肉)の過剰な筋活動が膝屈曲の妨げとなることが示唆されました。
膝伸筋活動が低いグループ(低PC2群)
- 足関節底屈角速度と膝屈曲角度に正の相関(r=0.65)が確認されました。
- 足関節底屈筋群の筋力不足が膝屈曲の妨げとなることが示唆されました。
リハビリへの応用
この研究から歩く時に膝が曲がらない原因は以下の2つに分類されることがわかりました。
- 膝を伸ばす筋肉(外側広筋・大腿直筋)が過剰に働きすぎている
- ふくらはぎ(足関節底屈筋群)の筋力が不足している
自分の症状がどちらに当てはまるのかを見極め、それに応じたリハビリを行うことで、歩行の質を大きく改善できる可能性があります。「どちらが自分に当てはまるのか分からない」という方は、これから紹介する見分け方を試してみてください!
当事者の方向け
- つま先立ち(壁や机に手をついて行う):ふくらはぎがすぐに疲れる場合は足関節底屈筋群の弱さが原因の可能性があります。
- 体重移動のチェック(立った状態でゆっくり前後に体重を移動する):前に体重を移したときに膝が突っ張る(ロックされた)感じがする場合は、外側広筋(膝を伸ばす太ももの筋肉)が過剰に働いている可能性があります。
医療従事者の方向け
- 筋電図(EMG)での評価:歩行中の膝伸筋の活動量を測定し、外側広筋や大腿直筋が過剰に働いていないかを確認
- 歩行観察:蹴り出し(プッシュオフ)が弱い場合、足関節底屈筋群の働き不足を疑います。
膝が曲がらない原因が当てはまるのはどちらか分かりましたか?
ここで大切なのは、その原因に応じたリハビリを選ぶことです。それぞれの原因に応じたアプローチを行うことで、膝がスムーズに曲がる感覚を取り戻せる可能性があります。以下では、膝を伸ばす筋肉が過剰に働いている場合と、ふくらはぎが弱すぎる場合、それぞれの具体的なリハビリ方法をご紹介します。ぜひ取り入れてみてください。
膝を伸ばす筋肉(外側広筋)の働きすぎが原因の場合
- 外側広筋のストレッチ:仰向けで膝を軽く曲げた状態で膝前面の筋肉を伸ばします。過剰な筋活動を抑え、膝が曲がりやすくなります。
- 体幹トレーニング:立った状態や腰掛けた状態でのバランス訓練を取り入れることで、膝を伸ばす筋肉(外側広筋、大腿直筋)の代償的な働きを軽減します。
ふくらはぎ(足関節底屈筋群)の筋力不足が原因の場合
- つま先立ち:両足でのつま先立ちでふくらはぎの筋力を鍛え、
足首の押し出しの力を強化します。 - 足首の柔軟性改善:足首を回す運動やストレッチで柔軟性を高め、スムーズな蹴り出しを作ります。
おわりに
今回のコラムでは、膝が曲がらない本当の理由として、以下の2つの要因を取り上げました。
- 膝を伸ばす筋肉が過剰に働きすぎている場合
- ふくらはぎが弱すぎてつま先で地面を押し出せない場合
これらの原因は、同じように膝が曲がらない症状を引き起こしますが、それぞれリハビリのアプローチが異なります。そのため、まずはチェック項目を試して、自分がどちらに当てはまるかを把握することが大切です。
そして、自分に合ったリハビリを日常生活に取り入れることで、歩行がスムーズになる可能性が高まります。リハビリは短期的な効果を求めるものではなく、継続することでその効果を実感できるものです。
「膝が曲がらない」という悩みを抱えている方が、このコラムを通じて、自分の症状に合った具体的な方法を見つけていただければ幸いです。スムーズな歩行を取り戻し、より快適な生活を目指しましょう。
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