【脳卒中リハビリ】歩行の安定は目で変わる。最新研究が示すその効果とは!

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。

今回のテーマは視線安定エクササイズで歩行とバランスが良くなる!です。

「歩いていると、視線を少し動かしただけでふらついてしまう…」

「景色を楽しみながら歩こうとすると、足元が不安定になる…」

これらは脳卒中後多くの方が抱えるお悩みですが、その原因の一つに「目の動き」が関係していることをご存知でしょうか?

2024年に発表された最新の研究では、視線安定エクササイズが歩行の安定性を改善し、バランス能力や転倒恐怖感の軽減にも影響を及ぼす可能性が示されています。

今回はその研究内容と自宅で簡単にできる方法をご紹介します。

豊田
視線安定化エクササイズの具体的な方法はコラム後半で解説しています!

【脳卒中リハビリ】歩行の安定は目で変わる。最新研究が示すその効果とは!

参考文献

今回の論文は2024年に「Gait&Posture」誌に発表された論文です。

The effects of gaze stability exercises on balance,gait ability ,and fall efficacy in patients with chronic stroke:A 2-week follow-up from a randomized controlled trial  Zhe Cui他,2024

研究の目的

目の動きがバランスに及ぼす影響はこれまで一部の研究で示唆されてきましたが、脳卒中後の方に対する効果は十分に検証されていませんでした。

そこで本研究では視線安定エクササイズが、慢性期脳卒中患者様の以下の能力へどのような影響を及ぼすのかを検証することを目的としました。

慢性期とは脳卒中発症から6ヶ月以上経過している場合を言います
  1. バランス能力(立ったり歩いたりする際の安定性)
  2. 歩行能力(速度、歩幅など)
  3. 転倒不安感(転倒に対する不安)

また、視線安定エクササイズの効果がトレーニング終了後も持続するかどうかも評価しています。

研究の概要

対象者

慢性期脳卒中の方30名(平均年齢52歳)

10m以上独立歩行もしくは見守りで歩行可能

実施内容

  • 頻度と期間:1回40分(理学療法30分に加えて、以下のトレーニングを10分)、週3日で4週間
  • 30名の方を3つのグループにランダムに分け、それぞれに異なるトレーニングを実施

    1. グループ1:バランスエクササイズ+視線安定エクササイズ
    2. グループ2:視線安定エクササイズのみ
    3. グループ3:バランスエクササイズのみ
視線安定エクササイズ(詳細は『リハビリへの応用(視線安定エクササイズのやり方)』欄に記載)
立位で各エクササイズを10回繰り返す。各エクササイズ間に30秒休憩を入れ、10分間行う。
バランスエクササイズ
体幹の安定化と麻痺脚への体重移動に焦点を当て、「①バランスパッドの上に立ち、姿勢を保つ」「②片足で立ち、もう片方の足を階段にあげる」という2つのエクササイズを10分間行い、各エクササイズ間に30秒休憩。

評価方法

バランス能力
  1. Biodex Balance System:安定指数(開眼・閉眼Overall Stability Index:開眼時と閉眼時の全方向への姿勢制御能力)と安定限界(Limit of Stability Test:バランスを保ったまま重心を移動できる範囲)を機器を使用し測定。
  2. Berg Balance Scale(BBS):0~56点で評価。点数が高いほど安定している。
歩行能力
  1. Timed Up and Go(TUG)テスト:肘掛けのある椅子から立ち上がり3m歩き、Uターンして椅子に座るまでの時間を測定。
  2. GAITRiteシステム:歩行速度(㎝/秒)、ケイデンス(1分間の歩数)、麻痺側と非麻痺側がそれぞれ地面に接地している時間(秒)、麻痺側と非麻痺側の歩幅(㎝)を測定。
転倒不安感(修正転倒効力感尺度)
  1. Modified Fall Efficacy Scale(MFES):0~140点で評価。点数が高いほど転倒に対する不安感が少ない。

研究結果

3つのグループ全てにおいて、介入期間後および2週間後のフォローアップテストでほとんどの評価項目が有意な改善を示しました。

特に視線安定エクササイズとバランスエクササイズを組み合わせた介入は、より大きな効果をもたらす可能性があります。

介入の効果が2週間後も維持されており、長期的な改善効果も期待できます。

各評価項目とグループごとの結果

バランス能力

評価項目グループ1グループ2グループ3
開眼時Overall Stability Index

-1.98

(5.06→3.08)

-0.66

(6.16→5.50)

-1.10

(5.95→4.85)

*グループ1のみ有意差あり。数値が低いほど、姿勢の安定性が改善したことを示す。2週間後もグループ1は他の2つのグループより有意に低い値を示した。

閉眼時Overall Stability Index

-3.14

(10.03→6.89)

-1.07

(9.59→8.52)

-0.72

(9.56→8.84)

*グループ1のみ有意差あり。数値が低いほど、視覚に頼らないバランス制御能力が向上したことを示す。2週間後もグループ1は他の2つのグループより有意に低い値を示した。

Limit of Stability Test

+13.10

(17.20→30.30)

+4.80

(19.30→24.10)

+4.80

(18.30→23.10)

*グループ1のみ有意差あり。数値が高いほど、バランスを保ったまま重心を移動できる範囲が広いことを示す。2週間後のフォローアップテストでもグループ1は他の2つのグループより有意に高い値を示した。

Berg Balance Scale(点)

+5.7

(39.6→45.3)

+1.6

(42.4→44.0)

+2.4

(41.2→43.6)

*グループ間差なし。数値が高いほど、バランス能力が高いことを示す。明確な有意差はないが、2週間後も3つもグループ全てにおいて介入後の改善が維持されていた。

 

歩行能力

評価項目グループ1グループ2グループ3
Timed Up and Goテスト(秒)

-5.90

(22.00→16.10)

-1.90

(21.10→19.20)

-2.00

(21.50→19.50)

*グループ1のみ有意差あり。数値が低いほど、スムーズで動的バランス能力が高いことを示す。2週間後もグループ1は他の2つのグループより有意に高い値を示した。

歩行速度(㎝/秒)

+21.59

(53.78→75.37)

+8.93

(52.52→61.45)

+5.98

(51.57→57.55)

*グループ1のみ有意差あり。数値が高いほど、歩行速度の向上を示す。2週間後もグループ1は他の2つのグループより有意に高い値を示した。

ケイデンス(歩数/分)

+16.77

(72.94→89.71)

+8.89

(71.88→80.77)

+11.34

(67.15→78.49)

*グループ1のみ有意差あり。数値が高いほど、1分間当たりの歩数が増えたことを示す。2週間後もグループ1は他の2つのグループより有意に高い値を示した。

麻痺側が地面に接地している時間(秒)

-0.23

(0.91→0.68)

-0.05

(0.88→0.83)

-0.06

(0.90→0.84)

*グループ1のみ有意差あり。数値が低いほど、麻痺側の足が地面に接地している時間が短くなり、歩行効率が向上したことを示す。2週間後もグループ1は他の2つのグループより有意に低い値を示した。

非麻痺側が地面に接地している時間(秒)

-0.09

(0.82→0.72)

-0.05

(0.87→0.82)

-0.07

(0.87→0.80)

*グループ1のみ有意差あり。数値が低いほど、歩行の非対称性が改善されたことを示す。2週間後もグループ1は他の2つのグループより有意に低い値を示した。

麻痺側の歩幅(㎝)

+10.13

(38.08→48.21)

+5.53

(37.58→43.11)

+4.01

(38.90→42.91)

*介入後のみグループ1で有意差あり。数値が高いほど、麻痺側の振り出しが大きくなったことを示す。明確な有意差はなくなったが、2週間後も3つもグループ全てにおいて介入後の改善が維持されていた。

非麻痺側の歩幅(㎝)

+14.02

(34.68→48.70)

+5.38

(34.25→39.63)

+5.53

(35.77→41.30)

*介入後のみグループ1で有意差あり。数値が高いほど、麻痺側の支持が向上したことを示す。2週間後もグループ1はグループ2より有意に高い値を示した。グループ3は有意差はなかったが改善は維持された。

 

転倒不安感(修正転倒効力感尺度)

評価項目グループ1グループ2グループ3
修正転倒効力感尺度(MFES:点)

+7.6

(84.50→92.10)

+2.5

(85.30→87.80)

+4.4

(84.60→89.00)

*グループ間差なし。数値が高いほど、転倒に対する不安が軽減したことを示す。明確な有意差はないが、2週間後も3つもグループ全てにおいて介入後の改善が維持された。

リハビリへの応用(視線安定化エクササイズのやり方)

この研究は、視線安定エクササイズが慢性脳卒中後の方のバランス能力、歩行能力、転倒不安感を改善させる効果を持つことを示唆しています。

視線安定エクササイズは、視線の動きや目と頭の協調性を鍛えるトレーニングで以下の8つがあります。

特別な道具は必要なく、自宅で簡単に始められます。後述する以下のステップで是非取り組まれてください。

  1. 目だけを左右の目標間で動かす。
  2. 目だけを上下の目標間で動かす。
  3. 目で左右に動く目標を追いかける。
  4. 目で上下に動く目標を追いかける。
  5. 視線を固定したまま頭を左右に動かす。
  6. 視線を固定したまま頭を上下に動かす。
  7. 頭と目を左右にそれぞれ反対方向に動かす。(例:頭を右に動かしながら、目は左の目標を追いかける。)
  8. 頭と目を上下にそれぞれ反対方向に動かす。(例:頭を上に動かしながら、目は下の目標を追いかける。)

自宅での取り組み方

各エクササイズは10回繰り返し、間に30秒の休憩を入れることがポイントです。週に3~5日、1日5~10分を目安に早速、以下のステップでやってみましょう。

ステップ1:まずは3日間、1日5分から座位で始める

安定した椅子に座り、目だけを動かすエクササイズ(①~④)からスタートしましょう。短い時間で無理なく始めることで、視線をコントロールする感覚を養います。慣れるまではリラックスして取り組むことが大切です。

ステップ2:4日目以降、10分に挑戦(目と頭の動きを連動)

座位で目と頭の運動(⑤~⑧を追加)を取り入れ、複数の動きを組み合わせて実施します。この段階ではエクササイズを10分(8つの合計時間)に増やしてみましょう。目の動き(①~④)に頭の動き(⑤~⑧)を加えることで、バランス能力や歩行中の安定性がさらに高まります。

ステップ3:立位や歩行中に応用する

座位での練習に慣れたら、立位や歩行中に取り入れてみてください。歩行中に視線を動かす練習を加えることで、さらに効果が期待できます。

おわりに

今回の研究から視線安定エクササイズは、脳卒中後のリハビリにおいて非常に有用であり、何より自宅で気軽に始められる点が大きな魅力です。まずは短時間からはじめ、継続することで改善を実感できるはずです。この小さな1歩が皆様にとって、より快適な生活への第1歩になれば幸いです。

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