この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。
本日は、小脳失調に対する『自宅でのバランストレーニングを行うことでどの機能の改善に繋がるのか?』というテーマでお伝えします。
小脳の機能は簡潔に言いますと、運動とバランスの調節をしています。
そして、人間の体は『小脳』でさまざまな筋肉の動きを組み合わせて動作を完成させています。これにより滑らかな運動ができているのです。
この筋肉の調整がうまく行えなくなってしまい、歩くときにふらついたり、物を掴むときに震えたりしてしまうのがいわゆる『失調』と呼ばれています。
小脳失調のリハビリにおいて、バランストレーニングを取り入れたりすることが主になってきますが果たしてどのような目的で行われていて、何の機能の改善にどう繋がっているのか…?また、自宅でトレーニングすることの必要性があるのか?
今回の記事では、そのあたりの疑問を解説していきます。
小脳失調のバランストレーニングって自宅でも必要?
はじめに
今回、参考にさせていただいた論文はこちらです。
A Home Balance Exercise Program Improves Walking in People with Cerebellar Ataxia.Bastian A,2017
対象者
- 小脳失調患者様14名
レベルは、全員立ち上がりと歩行自立(うち4人T字杖自立、1名歩行器自立)
組み入れ基準
- 小脳を主病変とする遺伝性疾患
- 主病変が運動失調を患っている方
- ICARS(国際協調運動失調評価尺度)スコア5
※3ヶ月持続を認めた方
静的・動的姿勢、歩行、四肢の動作、言語機能の項目に分けてさまざまな側面からみる運動失調の評価スケール
除外基準
- 他の神経疾患(例:パーキンソン病)
- MMSE(Mini -Mental Stateスコア):22点未満
- コントロールされていない高血圧
- 不安定型狭心症
研究方法
すべての参加者は6週間にわたり自宅での運動プログラムを実施し、頻度は各トレーニングを3~5分間・1日最低20分間・週4~6日実施するように指示されました。
またトレーニング中に、以下の項目に注意して実施されました。
- 評価項目の測定は、2週間毎に実施し、測定した結果の再現性を確認
- 終了の6週間目に再評価を行い、その4週間後にプログラムの定着度を評価
トレーニング内容
座位トレーニングに使われたものは、標準的な椅子・低反発クッション・ピーナッツ型のバランスディスク・バランスディスクの4種類でした。当事者様の状態に合わせてその中から1つ使用しました。
座位・立位ともにBerg Balance Scale(BBS)に類似したトレーニング内容でした。難易度は、静的から動的バランストレーニングへ移行していくようにプログラムを進めていきました。
当事者様の病状や失調の重症度も差が見られたため、一人一人に合わせたプログラムが構成されました。
アウトカム
- ICARS
- Dynamic Gait Index(DGI)※ 動的側面を5項目から総合的にみる歩行の評価スケール
- Time Up and Go Test(TUG)
- Functional Reach Test(FR)
- Activities Specific Balance Confidence Scale(ABC)※バランスの自己評価スケール
結果
結果を一覧で表した図がこちらです。
これだけでは、何を表しているかわからないと思いますので、必要な部分だけ共有させていただきます。
3本の棒グラフの違い
- Pre–training(左):トレーニング前の評価
- Post-training:(真ん中)2週間後の再評価
- Follow-up(右):6週間後の評価
以上がこの結果を読み取る上での前提情報です。
6つの項目の違い
- A:TUG
- B:DGI
- C:歩行パラメータ ※歩行速度・ケイデンス・歩幅によって決定される変数
- D:歩行速度
- E:歩幅
- F:二足荷重時間
以上がこの結果を読み取る上での前提情報です。
このことを踏まえた上でみていきますと、全ての項目で改善がみられ、バランストレーニングを行うことで歩行に関連する項目の改善がみられました。
✳︎のある部分は、有意差があることを示しています。
臨床的解釈
今回の結果から示唆されること…
小脳失調の方において、自宅でバランストレーニングを行うことで歩行機能の改善に繋がっているということです。
小脳の機能は、冒頭でもお伝えした通り『運動とバランスの調整』をしていますので、静的バランスや動的バランスのトレーニングを取り入れていく必要があります。
しかしお客様それぞれで症状や状態も違いますので、同一のトレーニングをご提供するわけではなく、その方に合わせた個別性・負荷量・難易度の選択が重要になってきます。
また頻度の設定やリハビリを継続することがより重要で、病院や施設等でのリハビリだけでなく、自宅の方でも取り入れていく必要があります。今回の研究も、頻度や時間を細かく提示されており実施していました。
小脳疾患を含め、脳卒中のリハビリにおいて最低でも週3回以上、6週間以上の継続が必要になってきます。そして自主トレーニングは常に自主トレーニングの様子をみられるわけではありませんので、特に定期的に見直しを行うことが大切です。
明日からの臨床の参考にしていただけると幸いです。
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