【理学療法士解説】ふくらはぎへのNMES|効果的な電極の貼り方と位置を解説

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。
神経筋電気刺激(NMES)とは
電気刺激を用いて神経、筋肉を刺激して筋肉を収縮させる物理療法の一つです。医療現場では筋萎縮の防止、筋力強化、静脈還流の改善など様々な用途で使用されています。
神経電気刺激では、電気で筋肉や神経を刺激することによって、筋肉が動くだけでなく、電極を貼った筋肉の動きを司る脳の部位の細胞の活動も向上するというデータも示されており、脳卒中(脳梗塞、脳出血)をはじめとする中枢神経疾患後のリハビリの手法として、その有効性が数多くの研究で報告されています。
運動点(Motor Point)とは
皮膚上で最も少ない電気刺激量で筋収縮を引き起こすことができる点のことです。
運動点に電極を配置することで、患者の不快感を大幅に軽減でき、治療効果も向上します。
解剖学的には「神経の枝が筋肉に入り込む部位」とされていますが、電気刺激が最も反応しやすい部位とは異なることもあり、個人差も大きいため個々の患者様に最も適した運動点を見極めるのは難しいのが現状です。
今回は、医療現場でも多用されやすい「ふくらはぎへの電気刺激」について、科学的根拠を基に最も電気刺激に反応しやすい部位や運動点の探索の仕方について解説します。

ふくらはぎへのNMESを行う際に有効な電極の位置について

Motor point heatmap of the calf (2023)
Schriwer et al. Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation

①研究の概要

健常者30名を対象に、ふくらはぎの運動点を詳細に調査し、解剖学的な位置関係を「ヒートマップ」として可視化した研究です。 ふくらはぎを48個のエリア(各3×3cm)に分割し、各エリアで運動点が見つかる確率を統計的に算出しています。

この研究の結論は以下の通り

運動点の位置には個人差が大きい
運動点は膝窩(膝の裏)に近い中央部と、ふくらはぎで最も太い部分に集中
特定のエリアでは運動点が見つかる確率が50%と高い
ふくらはぎの外側、内側、遠位部(足首側)では運動点がほとんど見つからない

②研究の背景と目的

神経筋電気刺激(NMES)は、筋萎縮の予防、リハビリテーション、筋力強化、深部静脈血栓症の予防など、多くの臨床的な使い方があります。 しかし、電極を最適な位置(運動点)に配置しないと、患者に不快感を与え、治療効果も低下し、治療の継続性が大きく損なわれます。
臨床現場では「運動点探索ペン」を使用して運動点を探すことが多々ありますが、この方法は時間がかかるためあまり使用されないこともあり、結果として電極が最適でない位置に配置されることもあります。
解剖学的な運動点マップがあれば、電極の配置作業を迅速化でき、NMESの効果と患者の満足度を向上させることができます。

本研究ではふくらはぎの運動点を導き出すマップ(運動点のヒートマップ)を作成し、48個の異なる各エリアにおいて運動点が見つかる確率を計算することを目的としています。

③研究の方法

1.対象者と対象の筋肉

  • 対象: 健常者30名(男性19名、女性11名)
  • 平均年齢: 37.2歳(±13.5歳)
  • 対象となった筋肉: 腓腹筋の内側頭と外側頭(ふくらはぎの内側と外側)
  • 除外基準: 妊娠、皮膚潰瘍、ペースメーカー、心臓内除細動器、重度の心疾患、腎不全、神経筋疾患、代謝性疾患のある人

2.運動点の探索手順

  • 参加者を腹臥位(うつ伏せ)にし、足を自由に動かせる状態にする
  • 解剖学的指標(膝窩(しつか:膝の裏側のくぼみの部分)の中心、アキレス腱の踵骨(かかとの骨)付着部、ふくらはぎの最大周径部(最も太い部分))を特定
  • 運動点探索ペンを使用し、3Hzの連続刺激で運動点を探索
  • 内側と外側それぞれで最も反応の良い4つの運動点(MP1~MP4)を特定
  • 各参加者の運動点の位置を正規化し、48個のエリア(各3×3cm)に分類

各エリアで運動点が見つかった参加者の割合(確率)を計算し、95%信頼区間(95%CI)を用いて統計的な優位性を評価しています。

④結果

※前提として、運動点の位置には著しい個人差が見られました。

その上で、48個のエリアで運動点が見つかる部位を「運動点ヒートマップ」として図に示したものが以下の通りです。

ふくらはぎの中で最も運動点の見つかりやすいポイントは以下の通りです。

第1位(画像の赤のエリア)

■エリア4:膝窩や膝窩の真下で、正中線のやや外側(95%CI: 0.31~0.69)

■エリア29:ふくらはぎの最も太い部分(最大周径部)、正中線からやや外側(95%CI: 0.31~0.69)

第2位(画像のオレンジのエリア)

■エリア9、10、1:に近い近位部、内側寄り(95%CI: 0.28~0.66)

第3位(画像の黄土色のエリア)

■エリア14、32:(95%CI: 0.20~0.56)

⑤臨床で推奨されるふくらはぎの運動点探索の順序

腓腹筋外側頭(ふくらはぎ外側)の場合:

  1. エリア4から探索を開始(確率50%)
  2. エリア4で見つからなければ、隣接するエリア9や10、16へ(確率47%)
  3. エリア29へ遠位に移動(確率50%)

腓腹筋内側頭(ふくらはぎ内側)の場合:

  1. エリア9でから探索を開始(確率50%)
  2. エリア9で見つからなければ下へと移動しエリア14や32へ(確率37%)

⑥結論(臨床への示唆)


運動点の位置には著しい個人差があるため、可能な限り各患者に対して運動点探索を実施することが推奨されます。今回画像でも示した「運動点ヒートマップ」は、探索の開始位置を示すガイドとして有用です。

運動点探索ペンが使用できない場合でも、ヒートマップを参考に確率の高いエリアに電極を貼ることで、治療効果を向上させる可能性があります。

基本的に電極の真下に最も強い電流が流れるため、電極が2つある場合は「刺激したい筋肉の動きを司る神経」と「運動点」に貼ることで最も高い効果が期待できます。(電気刺激装置によっては推奨されている電極の配置箇所が変わるため注意が必要。)

NMES治療により、神経軸索の発芽や新しい神経筋接合部の形成などの適応が起こる可能性があり、運動点の位置が変化する可能性があります。そのため、毎回同じ位置ではなく、定期的な再評価が必要です。

NMES治療を実施する際には、ぜひこのヒートマップを参考にしていただき、最適な電極配置を心がけていただければと思います。

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