この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。
今回のテーマは、脳卒中後の歩く速さについてをテーマにお伝えいたします。
突然ですが…当事者の方は、脳卒中後にこのように感じたことありませんか?
またこの記事を読んでくれている療法士の方も、改善に導く上で抱えている悩みの一つではないかと思います。
この記事では歩行速度の違いで得られる効果について解説します。
【脳卒中リハビリ】脳卒中後、速いスピードで歩く必要はある?
はじめに
今回、ご紹介する論文はこちらです。
推進力(PF)は、歩くときに自分を前に進めるための「前に押す力」のことです。
例えば、スケートや自転車をこぐときに後ろ足で地面を強く蹴ると体が前に進むと思いますが、その地面を蹴る力がいわゆる推進力です。
歩くときも同じで、後ろの足でしっかり地面を押すことで体が前に進むことができ、この力が弱いと歩くのが遅くなったりふらついたりすることに繋がります。
対象者
脳卒中患者100名
組み入れ基準
- 20歳以上
- 片側の下肢麻痺
- 認知機能障害がない
- 今回の研究の意図が理解できる
- 歩行補助具を使っていない
- ご自身の中での最大速度で歩行自立している
除外基準
- 両側の下肢麻痺が残存している
- 神経学的または整形学的な既往歴がある方
研究方法
100名の方を対象に、8mの歩道を速い速度と快適な速度の歩きを比較しました。
- 歩き始めと終わりのステップは除外
- 歩行が安定する中間部分で2~3回の「歩行サイクル」を計測
- 1人につき、3〜5回歩行測定を実施
- 歩行補助具の使用はせず実施
※転倒防止のために、セラピストが付き添い
アウトカム
- Fugl-Meyer Assessment(FMA)
- Trunk Control Test(TCT)
- Functional Ambulation Categories(FAC)
データ解析には、Visual3D 解析ソフトウェアを使用しました。
結果
今回の研究結果で、FMA、TCT、FAC全ての項目で改善がみられています。そして増加がみられたのは歩行速度と推進力でした。
以下に表記します。
評価項目 | 結果 |
---|---|
FMA 合計スコア | 193.5 ± 24.8 |
FMA 下肢運動スコア | 29.4 ± 3.9 |
FMA バランススコア | 11.8 ± 1.5 |
体幹コントロールテスト | 93.9 ± 10.9 |
FAC(歩行能力分類) | III: 10人 / IV: 39人 / V: 51人 |
こちらは快適に歩く速度と速く歩く速度の運動パラメータ(関節の角度)を比較して得られた結果です。
パラメータ | 増加率 |
---|---|
歩行速度 | +34% |
推進力(PF) | +24% |
反対に、遅発制動力(LBF)・骨盤の角度・股関節の動き・膝から下と足関節の連動した動きは速く歩いた場合、改善はみられませんでした。
臨床的解釈
結論から述べると、速く歩くことで推進力は向上するため自ずと歩行速度が上がるということです。
一方反対に、遅発制動力に関しては快適な歩きと速い歩きを比較しても変化がなく、速度を上げることに直接は関与していないと考えられます。
では歩行速度を上げたい時は、どのようにリハビリを進めていけば良いのか?と疑問に思っている方も多くいらっしゃると思います。
その場合は以下の方法を取り入れてみてください。(参考程度にお伝えします)
- トレッドミル
- リズムに合わせて歩く
以上のようなリハビリを行うことで、歩行に必要な推進力の向上を図り歩行速度を早くすることは可能です。
ただし、一つ注意点もあります。
それは、「歩行速度を速くすること」と「歩くフォームを綺麗にする」というのはイコールではないということです。
ゆえに、トレッドミルやリズム歩行訓練を行ったからといって必ずしも歩くフォームが綺麗になるということではありません。
あくまでも、「歩く速さ」を伸ばすために有効であるということを押さえておきましょう。
というのも、先ほどの研究結果にもあったように、速く歩く練習では歩く中で細かい筋肉の使い方や、バランスのとる方法には改善がみられなかったためです。
よって、まとめると…
- 歩く速さを重視したい場合→速く歩く練習をする(推進力を上げる)
- 歩くフォームを綺麗にしたい場合→各関節を動かしたり、連動した動きの練習をする(遅発制動力を高める)
今回はざっくり分けていますが、このように目的に応じてリハビリを行えるとより改善に近づいていける可能性が広がりますので、意識して行ってみてください。
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