この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。
ぜひ、明日からの臨床やリハビリにお役立てください。
本日は、「一日一万歩歩くと健康になるって本当なの?」というテーマでお話ししていきます。
というのも、巷では「一日一万歩」というとなんとなく健康維持のためのバロメーターみたいな認識が強く、医療機関等でもそのように言われた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで今回は、一日一万歩歩くと健康状態にどれほど影響するのか、それを調べた研究をご紹介していきます。
脳卒中後、日々リハビリを行なっている方はもちろん、健康維持のために定期的に運動を行っている皆さんにとってもお役立ちする内容となっております。
ちなみに、今回参考にした論文はこちらです。
【検証報告】1日一万歩歩くと健康になるって本当なの?
研究の背景と目的
身体活動は、心血管疾患、2型糖尿病、がんを含む複数の慢性疾患による罹患率と死亡率を減少させ生活の質の向上と関連すると言われています。
中でも『1日1万歩』という目標は一般的な健康にとって最適であると広く宣伝されていますが、実はこれは根拠に基づくものではなく日本でのマーケティングキャンペーンに由来します。
そこで本研究では、1日の歩数と死亡率に関する調査を行い、1日当たりの歩数と死亡率との間の用量反応関係を評価、この関係が年齢と性別によって異なるかどうかを明らかにすることを目的としました。
研究の方法
本研究はシステマティック・レビューです。 過去の先行研究をまとめ結果を解釈していきました。
結果
結論から言うと、「健康維持を目的にするなら1日最大8000歩歩けば十分」です。 以下の図をご覧ください。
Daily steps and all-cause mortality: a meta-analysis of 15 international cohorts.Amanda E Paluch,2022より引用
これは年齢別(60歳未満、60歳以上)にみた、歩数と死亡率の関係性を示したグラフです。
赤:60歳以上
まず青のグラフである60歳未満の人の歩数と死亡率の関係を見ると、死亡率がぐっと低くなるのは「約8000~10000歩/日」です。
つまり、60歳未満の成人においては10000歩歩くというのはある意味間違っていないかもしれません。
ただし、60歳以上の方のデータ(赤)を見ると、少しその様子が変わります。 青色と異なり、グラフがグーっと下がったかと思ったらそこで平行線ではなく、逆に上がっているのです。
つまりこれは「死亡率が高くなっている」ということを示しているわけです。
では、具体的な数値がどうなっているかというのを見ていくと…
まず、60歳以上の方で死亡率が最も低くなるであろう歩数というのは「約6000~8000歩/日」ということが明らかになりました。
つまり、こと60歳以上の方に関しては10000万歩も歩かなくて良いのです。
もっというと、10000万歩は逆に危険なんです。
なぜならば、グラフを見て分かる通り8000歩を超えたあたりから赤いグラフが上がっている(死亡率が高くなる)からです。
つまり、一日一万歩歩くというのはわずかに死亡率を高めてしまうことになるため、60歳以上の方の理想的な歩数というのは最大でも8000歩までにしておいた方が良さそうです。
臨床への示唆
今回の結果から言えること。
それは、「情報は正しく伝えなければリスクを伴うことがある」ということです。
これまでは一日一万歩という言葉が健康維持のために一人歩きしていましたが、今回の研究でそれは、「60歳未満の方に限る」と条件付きになったと言えるでしょう。
逆に、60歳以上の方にももれなく「一日一万歩歩きましょう」と伝えてしまうと、それは死亡率を高くすることを後押ししている可能性が高くなるわけです。
特に、医療従事者は権威性が高い職業の一つでもあるので、患者様も容易に信じてしまいます。
だからこそ、私たち理学療法士や作業療法士はもちろん、医療に携わる人は「正しく情報を伝えること」を強烈に意識していなければならないと、この研究結果を見て感じました。
ぜひ、これを機に患者様から「1日どれくらい歩けば良いですか?」と言われた場合には年齢を確認し正しく理想的な歩数というのをお伝えしてみてください。
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参考文献
Daily steps and all-cause mortality: a meta-analysis of 15 international cohorts.Amanda E Paluch,2022