脳卒中後、肩の亜脱臼に対する装具の効果とは?

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が、現在様々な神経疾患により麻痺を患い、本気で改善したいと思っている皆様へ、今後のリハビリのヒントとなる情報をお伝えします。

さて、脳卒中を発症した際に合併症の一つとして患う可能性があるのが肩関節の亜脱臼です。

脳卒中患者における肩関節の亜脱臼の発生率は7〜81%といわれており、そのうち73%は急性期に発生します。

The Effects of Active Shoulder Exercise with a Sling Suspension System on Shoulder Subluxation, Proprioception, and Upper Extremity Function in Patients with Acute Stroke.Jung KM,2019

急性期とは発症から約2週間までを指しており、肩関節の亜脱臼の多くはこの時期に発生することがほとんどです。

※特に麻痺が重度の場合に生じやすい

そして、この亜脱臼に対しては『スリング』という装具を装着し、亜脱臼が悪化しないようケアを行うケースが多いです。

そうすると、気になるのは…

装具って本当に効果があるのか?

ではないでしょうか?

そこで、今回の記事では…

「脳卒中後に生じる肩関節亜脱臼に対して、装具って効果があるのか?」ということについて解説して行きたいと思います。

脳卒中後、肩の亜脱臼に対する装具の効果とは?

肩関節の亜脱臼に対する装具の効果

最初に取り上げたいのは、今回の本題でもある…

装具が亜脱臼の増悪に寄与しているのか?

という点についてです。

結論から言うと、肩関節の装具は亜脱臼の増悪に対して有効です。

ただしそれには条件が2つあり、一つ目が亜脱臼の程度が10mm以上ある場合にのみ装具は臨床的に有効であることがわかりました。(Ada L,2005)

二つ目は『短期的には有効』という事です。

これは別の研究において明らかになったことで、肩関節の装具は即時的には亜脱臼に対して効果があるものの、装着から6週間後には亜脱臼の程度が強くなっていたという報告があります。(anke,2017)

さらに同研究では、装具をしない人の方がむしろ亜脱臼の程度が改善しているという結果も出ていることから、装具を長期的につけることはむしろ亜脱臼を助長する可能性があるとも結論づけています。

今回の知見では、スリングを装着しないことが亜脱臼の軽減に関係するのに対し、スリングの装着は痛みや肩の亜脱臼の予防にはならないようである。したがって、スリングを処方することは、かえって亜脱臼の矯正を阻害する可能性があるため、好ましい治療法とは言えないかもしれない。

A randomized controlled trial on the immediate and long-term effects of arm slings on shoulder subluxation in stroke patients.van Bladel A,2017

以上のことから、脳卒中後の肩関節亜脱臼に対する装具の効果は…

即時的には効果があるものの長期になるとその有効性は低くなっていく。むしろ亜脱臼を助長する可能性すらある。

といえそうです。

肩関節の痛みに対する装具の効果

もう一つ。肩関節の亜脱臼が生じているとき、痛みを伴うケースがありますがその際にも装具は使われます。

この時、この装具が痛みの緩和に効果的なのか否かを検討しているのですが、結果としてはこのようなものになりました。

肩関節装具は短期的には肩の痛みの発生を遅らせる効果があるが、長期的には痛みを予防する効果はない。

Supportive devices for preventing and treating subluxation of the shoulder after stroke.Ada L,2005

つまり、即時的に痛みの緩和を図るもしくは生じさせないよう予防する力はあるが、長い間装具をつけているからといって肩に痛みが生じないわけではないと言うことです。

そのため、現在発症から長期間経過されている方の中で『装具=痛みを生じさせないようにするため』という理由で装具を装着している方は、もしいま肩の痛みがないのであれば装具を外したとしても痛みが出現する可能性は低いかもしれません。

よって、1日のどこかで装具を外して様子を見てみるなど、少しずつ装具を外して肩を動かす生活に慣れていくのもリハビリの一環になるかもしれないですね。

脳卒中後の亜脱臼に対する装具の効果まとめ

今回ご紹介した知見から、脳卒中後に生じる肩関節の亜脱臼に対して装具をつける事は…

肩関節装具は『亜脱臼の程度』も『肩の痛み』も“短期的には効果がある”が、長期間つけていても効果をなさない。

ということが明らかになりました。

これら知見が、これからの皆様の生活を送っていく中で一つの参考になれば幸いです。

参考文献

・The Effects of Active Shoulder Exercise with a Sling Suspension System on Shoulder Subluxation, Proprioception, and Upper Extremity Function in Patients with Acute Stroke.Jung KM,2019

・Supportive devices for preventing and treating subluxation of the shoulder after stroke.Ada L,2005

・A randomized controlled trial on the immediate and long-term effects of arm slings on shoulder subluxation in stroke patients.van Bladel A,2017

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