【脳卒中リハビリ】 脳卒中片麻痺における「両上肢トレーニング」の新たな可能性
「麻痺側を動かす」から「両手を動かす」へ
脳卒中後の上肢麻痺は、歩行と並び患者さんの生活の質を左右する重要な課題です。
これまで多くのリハビリでは、麻痺側の上肢を集中的に動かす「単側上肢トレーニング(Unilateral Upper Limb Training:UULT)」が主流でした。
しかし近年、「両手を同時に使って動かす」ことの意義が再び注目されています。
最新研究が示す「両手の力」
2024年にDembeleらが発表したシステマティックレビューでは、発症6か月未満の脳卒中患者に対する両上肢トレーニング(Bilateral Upper Limb Training:BULT)の効果が包括的に検証されました。
研究の方法
- 検索データベース:PubMed、Scopus、PEDro、ScienceDirect、Web of Science
- 検索期間:初期〜2023年6月
- 対象:発症から6か月未満の上肢片麻痺を有する脳卒中患者
- デザイン:ランダム化比較試験(RCT)
介入群:両上肢トレーニング(BULT)
対照群:単側上肢トレーニング(UULT)
- 主要アウトカム: ① 上肢機能(FMA-UE) ② 日常生活動作(FIM)
- 解析方法:標準化平均差(SMD)を用いて効果量を算出 主な結果(14研究・706名)
- 結果
• 上肢機能(FMA-UE)
→両上肢群が有意に高い改善(SMD=0.48、95%CI 0.08–0.88、p=0.02)
• 日常生活動作(FIM)
→ 両上肢群が有意に優れていた(SMD=0.45、95%CI 0.13–0.78、p=0.006)
• サブグループ解析
→ 運動能力がほとんどない重度群でも効果が顕著(SMD=0.66、p=0.009)
この結果から、両上肢を使うことが早期の神経可塑性を促し、運動機能・ADLの双方に有効である可能性を示しています。
Bilateral versus unilateral upper limb training in (sub)acute stroke: A systematic and meta-analysis
リハビリへのヒント
ご自宅で簡単にできる練習を紹介
両上肢トレーニングのポイントは、非麻痺側の手が麻痺側の手を助けるイメージで動かすことです。
脳は左右の大脳半球がそれぞれ反対側の手足を動かしていますが、その2つをつなぐ橋のような役割をしているのが 脳梁(のうりょう)です。
この脳梁を通じて、右脳と左脳の間で「同じタイミングで動かす」という信号がやりとりされます。
両手を同時に動かすことで、麻痺側の脳の運動野も“間接的に刺激”を受けると言われています。
■両手動作のリハビリ
- 両手でタオルを使って台拭き
- ボールを両手で受け渡す
- コップやペットボトルを両手で持って注ぐ
- 両手でテーブルを押す・支える
非麻痺側がリズムを作り、麻痺側がそれに合わせて動くことで、手の動きが滑らかになったり、動かすタイミングを覚えやすくなったりします。
つまり「動かない手をひとりで動かそうと頑張る」のではなく、「両手で一緒に動くことで、麻痺側の手も動きやすくなる」という考え方です。

おわりに
麻痺が強いほど、「動かない手をどう使うか」が課題になります。そんな時こそ、両手で行う動作練習がヒントになります。
「麻痺した手はもう動かない…」と諦めるのではなく、非麻痺側と一緒に動かすことで、少しずつ動かしやすくなる可能性があります。
脳卒中片麻痺のリハビリにおいて、両手をどう使うかを意識することは、生活の中で手を使えるチャンスを増やすことにつながります。
日常生活のちょっとした動作も、両手で動かすトレーニングに変えることで、手の動きや生活のしやすさが変わってくることがあるかもしれません。
両上肢トレーニングの考え方が、日々のリハビリやご自身の取り組みのヒントになれば幸いです。
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