【脳卒中リハビリ】なぜ麻痺側に体重が乗らないのか?

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。 今回のテーマは脳卒中後の歩行を「横方向の移動」から再定義するです。

はじめに

体重移動は「時間の中で決まる」

歩行とは、左右の足へ体重を渡し続ける運動です。歩行中、身体の重心は右へ左へと横方向に移動します。

ただし、重心が支持脚の真上に止まるわけではありません。支持脚へ向かって近づき、最も近づいた瞬間を通過し、次の脚へ移っていきます。

ここでいう「体重が乗る」とは、重心がその足へ十分に近づくことを意味します。

今回の研究は、

  • 重心がどれだけ近づいたか
  • それが「いつ」決まったのか

を時間軸で明らかにした論文です。

【脳卒中リハビリ】なぜ麻痺側に体重が乗らないのか?

参考文献

今回の論文は2025年6月に発表された論文です。

Temporal Evolution of Frontal Plane Center-of-Mass Transfer Asymmetry in Post-Stroke Gait, Keng-Hung Shen.et al.

研究の概要

これまで脳卒中後の歩行は,歩行速度や歩幅、バランススコアといった結果で評価されることが多くありました。

しかし本研究は、横方向への重心移動そのものに注目しました。しかも、

  1. 足をついた瞬間
  2. 両足が地面についている瞬間(両脚支持期
  3. 片脚で支えている瞬間

という時間ごとに分解し、左右差がどの段階で作られているかを解析しました。

対象者と方法

  • 慢性期脳卒中の方14名(解析対象11名)
  • 三次元動作解析と床反力計測により横方向の重心位置・速度・後脚の仕事量を算出。
  • 倒立振り子モデルを用いて、各瞬間の状態から最終的な重心の最接近距離を予測。

研究の結果

左右差は3段階で決まる

麻痺側へ重心が十分近づかない理由は、単一ではありません。時間の流れの中で段階的に作られていました。

最終的な左右差の約54%は、足をついた瞬間に形成されていました。

主な要因は、麻痺側での横方向に広い足部の配置でした。足を外側に置くほど、重心はその足へ近づきにくくなります。これは「弱いから」ではなく、転倒を避けるための安全戦略である可能性があります。

体重が乗らないのではなく、最初の設計で近づきにくくしている場合があるのです。

両足が地面についている両脚支持期では、後脚が身体を横方向へ押し出し、重心を次の脚へ渡します。

本研究では、非麻痺側の後脚による横方向の仕事量(posterior limb work)が十分でないことが示されました。

ここで重要なのは、後脚の押し出し機構は足関節だけでなく、股関節や体幹も含む複合的な働きであることです。本来なら「良い方の足」が強く押し出して助けると考えがちですが、実際にはその出力が抑えられていました。

論文ではその理由として、

  • 麻痺側の感覚低下により、送りすぎると制御できない可能性
  • 横方向の不安定性を避けるための保守的戦略

が示唆されています。

つまり、非麻痺側が弱いのではなく、脳が安全のために出力を抑えている可能性があります。

非麻痺側へ体重を移すときは、両脚支持期の間に重心のばらつきが減少していました。これは、移動しながら身体が微調整を行っていることを意味します。

しかし、麻痺側へ移すときは、ばらつきは減らずそのまま残っていました。つまり、重心を近づけながら整える能力が十分に働いていない可能性があります。

これは筋力だけでなく、

  • 固有受容感覚
  • 体性感覚フィードバック

の影響が考えられます。

この研究が示した本質

麻痺側に体重が乗らない理由は、筋力不足だけではありません。

左右差は、

  1. 足部接地
  2. 両脚支持期での後脚の押し出し機構
  3. 移動中の微調整能力

という時間的に異なる段階で作られています。どの段階で差が生まれているのかを見極めることが、介入の出発点になります。

リハビリへの応用

体重移動がうまくいかないのは、筋力不足ではなく「物理的な戦略ミス」です。 最新研究が証明した3つの鉄則を守るだけで、脳への入力が変わり、麻痺した足は劇的に変わり始めます。

3つの鉄則

  • 位置は速度の10倍効く(10倍ルール)

「勢い(速度)」で乗せようとすると、今の1.7倍のパワーが必要で非現実的です。「足の付く位置」を数センチ修正する方が、物理的に10倍効率よく体重が乗ります。

  • 良い足こそがエンジン

杖に頼ると、良い方の足がサボり始めます。重心を動かすエネルギーは、手(杖)ではなく「良い足のふくらはぎ」で作ってください。

  • 空中で戦わない

足が浮いてからバランスをとるのは物理的に不可能です。脳がコントロールできるのは、「両足が地面についている時間」だけです。

パターン別:実践アプローチ

今回は足のつき方を2つのパターンに分けたリハビリを紹介します。

パターンA:怖くて足が外へ逃げる人 (感覚が薄く、広くつきすぎて乗り切れないタイプ)

戦略: エネルギーロスを減らす「省エネ配置」
  1. 位置: 勢いは不要。「腰幅のライン」の内側を静かに踏む。
  2. 出力: 非麻痺側(良い足)で地面を「真横」に強く押し込む。
  3. 感覚: 体重が乗った瞬間、中殿筋(お尻の横)への刺激(振動やタッピング、壁タッチ)で「着地」を確認する。
合言葉は、見て・内側に置いて・お尻で受信です。

パターンB:内反して足が内に入る人 (足がもつれ、外へ崩れるのが怖いタイプ)

戦略: 物理的な壁を作る「土台構築」
  1. 位置: 狭すぎると倒れます。「肩幅のライン」の外側へ、少しだけつま先を開いて壁を作る。
  2. 出力: 強く蹴るのは厳禁。良い足のつま先を残し(ブレーキ)、じわっと送り込む。
  3. 感覚: 足裏はNG(指が曲がるため)。中殿筋すねの外側で体重を感じる。
合言葉は、外に壁を作り、スロープで運ぶです。
 リハビリとは、闇雲に動くことではありません。 「視覚で正しい位置を決め、良い足で送り出し、お尻で味わう」
この物理法則に従えば、脳は安心して麻痺側の足に体重を預けてくれます。

おわりに

麻痺側に体重が乗らないのは、弱いからではなく怖いからかもしれません。

非麻痺側の足が押し出さないのは、怠けているからではなく守っているからかもしれません。

あなたの歩き方には必ず力学的な理由があります。その構造を知ることが、次の一歩を変える第一歩になります。

この研究が、皆様の日々のリハビリのヒントになれば幸いです。

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