この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。 ぜひ、明日からの臨床にお役立てください。
人間の視覚系において、視野と視力の正確さは『バランス能力』と『運動機能』に影響を与え、特に視覚系に問題のある方は、バランス能力の低下に繋がることが多いと言われています。
今回は、脳卒中後に歩行機能障害を患った方に対して、「眼球運動で歩行機能は改善するのか」というテーマに沿ってお伝えします。
【脳卒中リハビリ】眼球運動で歩行機能は改善するのか?
本日ご紹介する論文
研究の目的
脳卒中患者の歩行機能に対する眼球運動トレーニングは、歩行機能を改善することにどのような影響を与えるのかを検証しました。
対象者
研究の対象者は、脳卒中患者14名を実験群7名と対照群7名に無作為に割り付けました。
組み入れ基準
- 脳卒中発症から6ヶ月経過している
- 視野障害または前庭系に障害がない
- 既往に整形外科的疾患がない
- 歩行が自立可能レベルである
介入方法
実験群
4種類の眼球運動プログラム
- 絵カードを提示し、お題の絵カードを20枚の中から探す課題20回
- バトンを目線で追う(バトンと被験者の距離は1m)課題5分間
- 頭部を横に振り、逆さまのレターカードを読む課題10回
- 5cm、50cm離れたところからバトンを目線で追う課題5分間
対照群
一般的な歩行訓練プログラムを1セッション20分間、週5回、6週間実施
アウトカム
- 歩行速度
- ケイデンス
- 歩幅(インクフットプリントを使用)
結果
統計ソフトは、PSSソフトウェア(Ver.12.0)を用いてデータを統計処理し、実験群と対照群の歩行機能の改善度を調べるt検定を行いました。
※t検定とは…2つの母集団があり、それぞれの母集団から抽出した値の平均に差があるかどうかを検定すること
結論、眼球運動トレーニングによって歩行速度、ケイデンス、歩幅ともに、実験群では統計的に有意差がみられました。
- 歩行速度(m/s)
| 介入前 | 介入後(6週後) | 有意差 |
実験群 | 0.39±1.52 | 0.87±1.08 | p<0.05 |
対照群 | 0.47 ± 1.10 | 0.66 ± 2.01 | p>0.05 |
- ケイデンス(ステップ/分)
| 介入前 | 介入後(6週後) | 有意差 |
実験群 | 75.58 ± 0.90 | 81.65 ± 5.95 | p<0.05 |
対照群 | 78.36 ± 2.04 | 81.06 ± 2.10 | p>0.05 |
- 歩幅(m)
| 介入前 | 介入後(6週後) | 有意差 |
実験群 | 0.53 ± 0.01 | 0.56 ± 0.11 | p<0.05 |
対照群 | 0.52 ± 0.04 | 0.53 ± 0.10 | p>0.05 |
臨床的解釈
結論として、眼球運動は歩行機能に大きな影響を与え、また歩行訓練のみだけでは歩行機能改善は見込めないということです。
視覚系はバランス能力に影響を与えます。そのため、視覚系に問題がある方は、バランス能力低下を引き起こすことがあるといわれています。
つまり、歩行訓練と視覚フィードバック訓練を用いることで、歩行速度、ケイデンス、歩幅が向上し歩行機能改善に繋がるということです。
しかし、この研究や他の研究からも言えることは脳卒中のリハビリテーションには期間・頻度がより重要になってくる点もポイントです。
平均的に週3〜5回、6〜8週のリハビリの継続は必要と言われています。
参考までに、ご検討いただけると幸いです。
脳と脊髄リハビリ研究センター福岡によるセミナーのご案内
脳と脊髄リハビリ研究センター福岡では、当施設を利用して毎月セミナーを開催しております。
一回のセミナーの参加人数が8名限定と少数で開催しているため質疑応答等も行いやすく、終了後モヤモヤが残ったままにならないように徹底したディスカッションを中心に行っております。
セミナーのテーマは3つに絞っております。
- 『脳卒中リハビリテーション』
- 『ペインリハビリテーション』
- 『クリニカルリーズニング』
この3本を月毎に開催しております。
詳しい内容や日時については、こちらのページをご覧ください。
当センターでは、療法士の皆様向けに2つのカテゴリーにわけて育成型のセミナーを実施しております。Pain rehabilitation近年、脳-神経系の関与や情動・心理といった部分に対する介入の必要性が問[…]
皆様の明日の臨床を確実に変えられるような、そんなセミナーとなっております。
ぜひ、ご参加お待ちしております!
参考文献
The effects of eye movement training on gait function in patients with stroke