この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。
今回のテーマは「歩きを変えるカギは“アキレス腱の再教育”?!」です。


脳卒中を経験された方の中には このような悩みを抱える方も多くいらっしゃいます。
その背景には、筋力や痙縮だけではなく、アキレス腱そのものの変化が関係しているかもしれません。
【脳卒中リハビリ】蹴り出しが変われば、歩きがもっと良くなる!
参考文献
今回の論文は2025年1月に発表された論文です。
研究の概要
対象者
- 慢性期脳卒中患者15名(平均発症後6.7年)
- 健常対照群19名
※本研究の対象は比較的痙縮が少ない、または軽度の方
評価項目
- アキレス腱の厚さ(thickness)
- コラーゲン線維束の配列(PSFR :Peak Spatial Frequency Radius)
- 歩行速度(10m歩行テスト)
- 下肢運動機能(FMA:Fugl-Meyer Assessment)
- 足底屈筋の筋緊張(MAS:Modified Ashworth Scale)
研究の結果
- 腱の厚さ:麻痺側では踵部・2cm上部で対照群より有意に厚い
- コラーゲン線維束の配列(PSFR):麻痺側で低下→ 線維の乱れを示唆
歩行速度:脳卒中群の平均速度は0.88m/s(対照群は1.44m/s, p=0.01)
※ただし、腱形態と歩行速度の直接の相関分析は記載なし
この研究が特別な理由
これまで歩行の制限要因は筋力や痙縮に焦点が当たっていましたが、この研究ではアキレス腱の構造的変化が歩行機能と関係する可能性を明確に示唆した点が重要です。
特に、発症から平均6.7年経過しても腱の構造異常が残存し、腱の厚さ増加や線維の乱れが明確に観察されました。これは、蹴り出しが戻らないのは「筋の問題だけではなく腱にも目を向ける必要がある」という、臨床の視点を変える大きなヒントになります。
リハビリへの応用
アキレス腱は、ふくらはぎの力を踵に伝えるロープのような存在です。そのロープがねじれたり、ゴワついたりしていると力はうまく伝わりません。だから腱も再教育が重要なのです。今回の研究結果を踏まえ、アキレス腱へのリハビリアプローチとして以下のような視点が挙げられます。
腱の再教育に向けた4つの視点
腱に「正しい張力」を伝える感覚づくり
- 足底ブラッシング(足指の付け根や踵周囲)
- 足趾タッピング・パッド刺激
足裏のどこで踏むかを脳が再認識することで、腱に伝わる力の方向が整う
荷重タイミングの誘導
- かかと→指の付け根→母趾球へのスムーズな荷重練習(骨盤誘導や視覚的フィードバックも活用)
腱が使われるタイミングを脳が再獲得
エキセントリック収縮の活用(伸ばしながら負荷)
- 段差下ろし:両足で段に乗り、その状態から非麻痺側を床へ下ろしていく
- 踵の上げ下げ(足指の付け根で支えることを意識)
※膝をやや曲げて行うことで、腓腹筋由来の痙縮を抑制しつつ、ヒラメ筋からアキレス腱への伸張刺激を高められます!
腱に適度な伸張刺激を与え、線維方向の再編成を促進
リズム刺激による反射的動員
- 座位で左右交互に足上げ
- 立位でその場足踏み(メトロノームなどリズムに合わせるとなお良い)
- 左右の足を交互に軽くステップしながら切り替える(スキップ動作)
腱の「ためて→跳ね返す」という反射的機能を呼び戻す
おわりに
この研究は、筋だけでなく腱の再教育も機能回復のカギであることを、歩行速度の低下と関連する腱の構造変化という視点から示した貴重な報告です。
ふくらはぎを鍛えても変わらないその裏には、腱の線維が正しい方向に並ばずうまく使われていないという可能性があります。
このコラムが、当事者の方にとって「じゃあ今から腱も鍛えよう」と思うきっかけになり、セラピストにとっては「筋力やROMだけでなく腱の質とタイミングも診る」という新しい視点につながれば幸いです。
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