この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。
脳卒中を経験した方の多くは、バランス能力や歩行といった部分に困難を感じることが多いです。
この問題の背景の一つとして、脳卒中後、体幹を中心とする筋肉の動きが鈍くなることによって身体の非対称性の増加、そして麻痺側の足はもちろん、非麻痺側の足の使い方も悪化してしまうことがあります。
逆にいうと、これらの問題を解決することができればバランスや歩行といった問題をリカバリーすることが可能になってきます。
そこで今回は、こうした問題を解決するための方法として発表された『Diagonal Pattern Training』というのをご紹介していきます。
現在…
- 体幹機能に問題を抱えている
- バランス能力を高めたい
- 歩くスピードをもっと速くしたい
といったこれらの悩みや希望をお持ちの方はぜひ最後までご覧ください。
【脳卒中リハビリ】体幹を鍛えてバランス能力と歩行スピードを飛躍的に高める方法をご紹介!
はじめに
今回ご紹介する論文はこちらです。
研究の対象となった患者様は脳卒中発症から6ヶ月以上経過した45~70歳の方42名です。
この42名のうち21名がDiagonal Pattern Trainingを実施し、残りの21名はこれを実施しませんでした。
Diagonal Pattern Trainingとは
Diagonal Pattern Trainingとは、身体における『対角』を意識したトレーニング方法で、座った状態で両上肢を右上→左下、左上→右下といったように繰り返し動かすことで上肢だけでなく体幹筋も同時に使うことができるトレーニングです。
また、脳卒中後における一つの特徴として左右非対称、もっと具体的にいうならば「非麻痺側優位」に身体を使う傾向になります。
Diagonal Pattern Trainingは対角に身体を動かすことによって非麻痺側はもちろん、麻痺側の筋肉ももれなく使う動きを必要とするためこうした非対称性の改善に繋げることができます。
実施方法
以下にDiagonal Pattern Trainingの進め方を示します。
- 概要
- エクササイズは10の異なる対角パターンエクササイズから成り立っています。
- これらのエクササイズは、5つの段階(1st stageから5th stage)に分類されています。(エクササイズ9.10になる程難易度が高くなる)
- 各エクササイズは、記載されている「Start position」から始めて「End position」で終わります。
- 実施方法の流れ
- まず「Diagonal pattern exercise 1」を1分間行い、30秒休んでから再び同じエクササイズを行う、というプロセスを5回繰り返します。その後、次の「Diagonal pattern exercise 2」に移行し、同様の手順で進めます。
- このトレーニングを4週間実施します。
エクササイズは全部で10種目あり、それぞれを1分間×5セット行うので中々ハードなトレーニングではあるかと思います。
Diagonal Pattern Trainingを実施しない『対照群』については、single plane trainingといわれる運動を行っており、これは単一の方向の運動を繰り返し行うトレーニングのことを指します。
Diagonal pattern exerciseの効果
①体幹機能
体幹機能は、Trunk Impairment Scale(TIS)という方法で評価をしました。
具体的なスコアの変化は以下の通りです。
静的バランス能力 (Static):
Diagonal pattern exerciseグループ: 6.19から6.76へ増加
対照群: 6.29から6.52へ増加
動的バランス能力 (Dynamic):
Diagonal pattern exerciseグループ: 3.24から3.81へ増加
対照群: 3.62から3.81へ増加(実際には変化はほとんど見られない)
協調性 (Coordination):
Diagonal pattern exerciseグループ: 1.52から2.05へ増加
対照群: 1.76から1.90へ増加
合計 (Total):
Diagonal pattern exerciseグループ: 10.95から12.62へ増加
対照群: 11.67から12.24へ増加
以上の結果から、Diagonal pattern exerciseグループは静的、動的、協調性、そして合計スコアにおいて対照群よりも有意に大きな増加を示しました。
②バランス能力
バランス能力はBerg Balance Scale(BBS)という方法で評価しました。
具体的なスコアの変化は以下の通りです。
Diagonal pattern exerciseグループは38.48点から40.43点に向上していた一方、対照群(Control Group)は38.43点から39.05点へとわずかに向上が見られました。
バランスに関しては、大きな差はないものの僅かにDiagonal pattern exerciseグループの方が効果としては高い結果となりました。
③歩行能力
歩行能力は10メートル歩行テストという方法で評価しました。
これは、「10メートルを何秒で歩けるか?」というテストで速い方が歩行能力が高いと評価することができます。
Diagonal pattern exerciseグループは最初25.0秒で、トレーニング実施後(4週間後)には22.5秒まで改善していました。
対照群は最初24.5秒で、4週間後は23.5秒と僅かに改善が見られました。
以上から、歩行能力に関してはDiagonal pattern exerciseグループの方が効果的なトレーニングであることが示されました。
臨床への示唆
ここまでの話しをまとめると、Diagonal pattern exerciseは『体幹機能』と『歩行能力』に対して強い効果を発揮することができる可能性が高く、『バランス能力』に対しても僅かに効果を望める方法であることがこの研究から明らかになりました。
特に、身体の非対称性が強い方などにはすごくオススメできる自主トレとなっておりますので、ぜひ参考にしていただけると幸いです。
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