この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。
脳卒中後に起きやすい「反張膝」とは
脳卒中後の片麻痺では、麻痺側の足が地面に着いている時に膝が必要以上に伸びて反ってしまう「反張膝」がしばしば見られます。反張膝は見た目の問題だけでなく、膝の痛み・関節の内部の損傷・足の不安定さにつながり、長期的には関節の組織にダメージ(変性)が累積するのではないかと考えられます。
反張膝が起こる理由としては、主に 筋力低下 や 固有感覚の障害 などが挙げられます。感覚入力が不十分だと、膝を「ちょうどよい位置」で制御しにくくなり、結果として過伸展(膝が後ろへ反り返る)、という状態になりやすくなります。
膝のクッション役「半月板」と「反張膝」の関係
膝関節にある半月板という組織は、太ももの骨と脛(すね)の骨の間で接触面積を増やして荷重を分散し、関節の安定に影響を与える重要なクッション材です。反張膝のように膝が不自然な方向へ強く伸びる状況では、半月板が圧縮ストレス(押しつぶされるような力)を受けやすく、損傷するリスクがあるかもしれません。
「歩き方」と「半月板」を同時に見る:歩行分析 × MRI というアプローチ
今回紹介する研究論文では、反張膝を「観察」だけで終わらせず、
- 歩行中の関節角度や床反力(VICON+フォースプレート)
- 半月板の体積や、水分状態の指標としてのfree water割合(MRIで確認)
をみています。つまり「膝の動き」だけでなく、「膝の中の組織には何が起きていそうか」まで踏み込んでいます。
①研究の結論
この研究の結論は以下の通り
片麻痺からの時間が長いほど、反張膝の角度が大きくなりやすい
反張膝の角度が大きいほど、半月板の断裂が多くなりやすい
反張膝の角度が大きいほど、非麻痺側の脚の外側半月板の水分含有量が減少し、内側半月板の水分含有量が増加
反張膝が強いほど麻痺側を中心に半月板の体積が小さい(=裂け・摩耗などがある
②研究の対象者
- 対象者:慢性期の脳卒中患者8名(男性6名・女性2名 年齢平均50.25歳)
- 発症からの経過期間:発症から6か月以上(慢性期の方)
- 歩行能力:歩行能力の検査であるFACが4(平地は歩行可能だが斜面などの不整地では介助や指示が必要なレベル)で、補助具なく10m歩行可能
- 研究から除外した基準:認知機能検査であるMMSEが24点以下、元々膝関節の損傷や痛みがある、臓器の重要な疾患がある、等
③研究の方法
- 歩行時の関節運動の解析
使用機器:8台の赤外線カメラを備えたVICONモーション解析システム
反射マーカー:Plug in歩行モデルに基づいて解剖学的位置に貼付(膝は大腿骨外側上顆) - 床反力や関節トルクの測定
使用機器:kistlerフォースプレートプラットフォーム(2台) - 半月板の水分含有量と体積の測定
使用機器:GE Pioneer3.0T 磁気共鳴画像診断装置(MRI)スキャナーと専用の 16 チャンネル膝表面コイル、および 3DデュアルエコーUTEシーケンス
※実際にどの部分にマーカーを貼っていたか、MRIでどの部分を観察していたか等は元の論文を参考にしてください※
④結果:膝反張が強いほど、半月板は「小さい」傾向
この研究ではピアソンの相関関係を見ています(AがBとどのくらい関係しているかを見る統計の方法のひとつ)。
※今回の場合は反張膝の角度と半月板の関係を確認※
ポイントは大きく3つです。
- 発症してからの時間経過長いと反張膝の増大と結びつく可能性がある。
- 膝反張角度が大きいほど、半月板体積が小さい(負の相関)
反張膝の角度が大きいと、「麻痺していない方の膝の内側の半月板」と「麻痺している膝の内側と外側の半月板」の体積が減る
- 非麻痺側:内側半月板体積 R = -0.53
- 麻痺側:内側半月板体積 R = -0.57
- 麻痺側:外側半月板体積 R = -0.70
- 半月板の中の水分の指標(free water割合)にも偏りが出る
反張膝の角度が大きいほど、膝の半月板の水分の指標が減少(正常な値と比べ平均して52~54%台と半分ほどに)
- 非麻痺側・外側半月板前角:R = -0.91(膝反張↑で水分指標↓)
- 麻痺側・内側半月板前角:R = 0.53
- 麻痺側・内側半月板後角:R = 0.63
⑤反張膝に対する考え方の注意点
この研究では、反張膝の角度と歩行速度・歩幅といった関節の動き等の時空間パラメータとの相関は「低い/ほぼない」結果が多く示されています。
つまり、歩行が遅い・あるいは歩幅が小さいから膝反張が強い、ということではなく、関節の角度や関節や筋肉に加わる力を見ないと反張膝の要因の本質が見えにくい可能性があります。
⑥臨床への示唆:反張膝は放置せず、早めに適切なアプローチが必要
時間が経つほど膝反張が強くなる傾向があるため、膝反張は「様子見」ではなく、早期から評価・リハビリのプログラムに載せるべき。
膝反張が強い人ほど半月板体積が小さくなる可能性があり、歩き方を綺麗にするためにだけでなく、膝の中身(今回は半月板)が二次的に障害されるリスクとしても捉える必要がある。
※論文の中では装具の選択などにも触れており、膝反張を軽視せずに装具を処方するなど、状態に応じて戦略を変える重要性が示されています。
反張膝を軽減させる方法で、「固有受容感覚のトレーニング(proprioseptive training)」は一定の効果があると報告されています。
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