脳卒中患者のバランス能力に対する運動イメージを用いた固有感覚トレーニングの効果

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。 ぜひ、明日からの臨床にお役立てください。

 

今回は、脳卒中患者において「運動イメージが必要な理由と、バランス能力を高めるために固有感覚トレーニングがどう関わりを持つか」というテーマに沿ってお伝えいたします。

バランス能力低下の理由で、多くの場合は固有受容器の損傷筋緊張の低下です。脳卒中患者様の約 65% は触覚、防御反応、固有受容の喪失を招くと言われています。

これを踏まえて、今回の研究にて運動イメージはどのように影響してくるのかを検証していきたいと思います。

脳卒中患者のバランス能力に対する運動イメージを用いた固有感覚トレーニングの効果

本日ご紹介する論文

Effects of proprioception training with exercise imagery on balance ability of stroke patients.Lee H,2015

研究の目的

本研究の目的は、「運動イメージトレーニングを伴う固有感覚トレーニング」「一般的な固有感覚トレーニング」を行った上で、運動イメージが、脳卒中患者のバランス機能に影響があるのかを検証することです。

運動イメージとは?

運動イメージとは、体を動かすことなく頭の中で動きをイメージすることです。

実は、運動イメージと運動実行の際の脳活動はかなり類似すると言われており、これによって運動イメージで運動機能の学習を促進することが可能になるのです。

運動イメージトレーニングの有効性を検討するために使用された機能的磁気応答画像法(FMRI)の結果は、一次運動野一次体性感覚野の両方ならびに背側運動前野上頭頂葉であることが示唆されています。

および頭頂間溝は、運動イメージトレーニングによって活性化されると言われています。

固有感覚とは?

固有感覚とは、視覚やその他の外的手がかりに頼ることなく、自分の身体部分の位置動き向きを知覚する能力のことです。

これは、身体の内部状態に関する情報が提供され、個人がバランスと調整を維持し複雑な動きを実行するのに役立つ感覚モダリティです。

対象者

それでは、以上前提を踏まえた上で研究デザインについて解説します。

研究の対象者は、韓国にある病院の脳卒中患者様36名。この36名を実験群18名対照群18名に無作為に割り付けました。

※実験群の選出基準

  • 非外傷性片側性脳梗塞発症後6ヶ月以上経過していること
  • 韓国版Mini Mental State Examinationが24点以上
  • Vividness of Movement Imagery Questionsが2.26点未満
  • 3分以上の立位が自立して可能
  • 10m以上歩行可能
  • 起立バランスに影響する整形外科疾患がないこと

介入方法

実験群(MTG)

5分間のイメージトレーニングと25分間の固有感覚トレーニング

固有感覚トレーニングの後に、運動イメージトレーニングへの集中力を高めるため、別室にて適切な温度・音のない環境で運動イメージトレーニングを実施しました。運動イメージトレーニングは、モビリティイメージと視覚イメージに分けられました。

  • モビリティイメージ:主観的に実際の身体の動きの内部感覚情報を想像すること
  • 視覚イメージ:客観的に自分自身の身体の動きを想像すること

対照群(PTG)

30分間の固有感覚トレーニングのみ

各セッションとトレーニングプログラムは、週5回8週間実施された
※詳細は下記の表にて記載する。
固有受容トレーニングプログラム
バランスパッドを使ったトレーニング(1~4週間)バランスボードを使ったトレーニング(5~8週間)
a.静止立位f.立位:左右へのウエイトシフト
b.カーフレイズg.立位:前後へのウエイトシフト
c.スクワットh.スクワット
d.前後スクワット

i.

カーフレイズ
e.閉眼立位j.バランスボード上での起立

アウトカム

  • Berg Balance Scale (韓国版BBS)
  • Timed Up and Go test (TUG)
  • 体重負荷比 (AFA-50、Alfoots)
  • 関節位置感知誤差 (Dualer IQ Inclinometer、JTECH Medical)

結果

結論として、運動イメージを行った上で固有感覚トレーニングを行う方がよりバランス能力を高めることに繋がるということが明らかになりました。

両グループ間において、K-BBSの点数は増加し、TUGの時間も大幅に減少しました。また、実験群の方がより大きな改善が認められました。

臨床的解釈

以上の結果から、運動イメージを行った上で固有感覚トレーニングを行う方がより効果的ということがわかりました。

なぜならば冒頭でもお伝えした通り、運動イメージを行うことで一次運動野一次体性感覚野ならびに背外側運動前野上頭頂葉が活性化されることがわかっているからです。

人間は、運動を実行する流れとして、一次体性感覚野で感覚情報が統合され、その情報をもとに補足運動野で運動が計画される(運動イメージ)という構造になっています。

そこを踏まえた上で、運動イメージを取り入れたリハビリテーションを行えるとより運動を実行しやすくなり、バランス能力をあげることに繋がるかと思います。

また運動イメージを行う上で、この研究のように環境設定に配慮が必要かと思います。

今後の臨床において、参考までにご検討いただけると幸いです。

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参考文献

Effects of proprioception training with exercise imagery on balance ability of stroke patients.Lee H,2015

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