【脳卒中リハビリ】立ち上がり練習100回は案外馬鹿にできない自主練かも

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。

今回は、脳卒中後のリハビリとして用いられる「立ち上がり練習の効果」について解説したいと思います。

一昔前のリハビリテーションでは「立ち上がり練習を100回する」みたいなことが割と多くの施設で行われていたようですが、現在こういった練習は減少傾向にあります。

その背景は様々で、「ただ回数やったって良くなるわけがない」と言った主張や、「筋肉に対する負荷が強すぎる」と言った主張、私たち療法士界隈の中の話しで言うと、「ただ立たせる運動なんて専門職じゃなくてもできる」など、こうした立ち上がり練習100回に対する否定的な声が沢山上がってきた結果として徐々に衰退してきたのではないかと私は考えています。

とはいえ、それは事実なのか。 本当に高負荷の立ち上がり練習に果たして効果はないのだろうか? この点を先行研究を参考に解き明かしていきます。

【脳卒中リハビリ】立ち上がり練習100回は案外馬鹿にできない自主練かも

はじめに

まずはじめに、今回参考にさせて頂いた論文はこちらです。

Effect of foot position during sit-to-stand training on balance and upright mobility in patients with chronic stroke.Rabbani Farqalit MPT,2013

この研究では、慢性期脳卒中患者様が高頻度・高負荷の立ち上がり練習を行ったらパフォーマンス(特にバランス能力)がどれくらい向上するのか? というのを調べたものとなっています。

それでは、具体的にどのような患者様が対象になり、どのような方法で実施されたのかみていきましょう。

研究方法

対象者

合計40人(男性29人、女性11人)の慢性脳卒中患者様が対象となっています。 対象者の特徴としては…

  • 脳卒中発症から6ヵ月以上経過している方
  • Brunnstrom-stage:IV-V
  • 年齢:40歳以上
  • mini mental state examinationスコア:21点以上
  • 手を使わずに椅子から立ち上がることができる

このような組入基準となっています。

進め方

参加者40人は無作為に20人1グループでAグループとBグループに振り分けられました。

Aグループは立ち上がり練習の際に、両足の位置をずらした状態で行いました。

具体的には麻痺側の足を非麻痺側よりも引いた状態で繰り返し立つ練習を行います。

一方、Bグループは足の位置を両側同じ位置(一般的な立ち上がり練習と同じ)で行いました。 立ち上がり練習は両グループともに100回(各10回×10セット)を週5日、4週間にわたって実施しており、かつ1セットごとのインターバルは1分間と、かなり高負荷なトレーニングの内容になっています。

アウトカム

アウトカムとして用意された評価は全部で3つです。

  1. STSパフォーマンス
  2. Berg Balance Scale
  3. Timed Up and Go test

STSパフォーマンスとは、Aグループが行っている立ち上がり練習の方法のことで、非麻痺側の足を麻痺側の足から少し引いた状態で何回立ち上がれるかを評価するものです。

結果

それでは、立ち上がり練習後両グループのパフォーマンスの結果を見ていきましょう。

①STSパフォーマンス

 介入前介入後
Aグループ46.165.0
Bグループ44.453.3

Aグループが平均約18回、Bグループが平均約9回立ち上がりの回数が増えており、この結果からAグループの方がパフォーマンスが向上していることがわかります。

②Berg Balance Scale

 介入前介入後
Aグループ33.949.2
Bグループ29.342.6

BBSの平均改善度はAグループで15.6点、Bグループで13.4点でした。ここでもAグループの方に軍配が上がりますが、両者ともにパフォーマンスの向上は著しいです。

③Timed Up and Go test

 介入前介入後
Aグループ15.811.6
Bグループ15.613.1

TUGは歩行にかかった時間なので、数字が小さくなるほど改善が見られたと判断できます。

見ると、Aグループの平均改善時間は4.16秒であったのに対し、Bグループのそれは2.51秒でした。 つまり、ここでもAグループの方がパフォーマンスの改善により強い効果を示しました。

臨床への示唆

今回の結果から得られた知見。それは、「立ち上がり練習100回もあながち的外れじゃないかもしれない」ということです。

というのも、今回対象となった脳卒中患者様は『慢性期』の方です。

回復期ならまだしも慢性期で全てのアウトカムにそこそこ大きな改善が出せるというのは非常に重要な結果になるからです。

加えて、AグループとBグループの違いを見ると、どれもAグループの方がアウトカムの結果が良かったことがお分かりかと思います。

つまり、立ち上がり練習を行う際は普通に両足揃えて実施するのでも十分効果はあるんですが、より成果を求めるならば麻痺側の足を少し引いた状態で行うのが好ましいかもしれません。

立ち上がり練習100回はもう古いと思われるかもしれませんが、実施できる体力があること、転倒リスクが少ないことなど実施可能な条件が揃っているのであれば行ってみるのも良いかと思います。

ただし、これはあくまでも自主トレであれば良い方法であると私は考えておりまして、というのが理学療法もしくは作業療法の時間を使ってこのリハビリを行うとなると、あまりにも専門性に欠けるからです。

立ち上がり練習であれば、1人ないしはご家族様の見守りがあれば行えます。

しかし、理学療法士や作業療法士さんが介入できるのは24時間のうち多くても1時間ほどしかありません。

故に、できればその時間は「療法士の方がいないとできないリハビリ」、これを重点的に行えると良いのではないかと考えています。

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