この投稿は、『脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。
私たちは普段、歩くときに「身体のどこに重心があるか」「左右のバランスはどうか」などを、無意識のうちに感じ取りながら動いています。 ですが、脳卒中の後にはこの“身体の気づき”が鈍くなることがあります。
その結果、歩くときにふらついたり、どちらかに片寄ったりして、転びやすくなってしまうことも。
そんな時に大切になるのが「身体を感じる力=身体認知」なのです。


脳卒中を経験された方の中には このような違和感を抱える方も多くいらっしゃいます。
一般的にリハビリでは主に運動機能に焦点を当てていることが多いです。
今回紹介する研究は、慢性期脳卒中患者の方に対して自身の姿勢や動作に意識的に気づきを促すことで、バランスや歩行能力が改善したことを明らかにしたものです。
この記事では、このような感覚を感じている方への一助となる内容となっています。
【脳卒中リハビリ】歩きやすさを変える“身体認知”トレーニング
参考文献
今回の論文は2016年1月に発表された論文です。
研究の概要
対象者
- 慢性期(発症6ヶ月以上経過)脳卒中患者30名
研究デザイン
- 参加者をランダムに2群に分ける。
- 介入群:身体認知トレーニング20分+歩行訓練30分(週5回×4週間)
- 対照群:歩行訓練のみ30分(週5回×4週間)
介入内容
- 身体認知トレーニングは、鏡を使った姿勢確認、ゆっくりとした体重移動の感覚練習、自己観察を中心に行った。
- 歩行訓練は理学療法士指導のもとで行い、主に歩行速度・バランス強化を目的とした。
評価項目
介入前後で以下の評価を実施。
- Berg Balance Scale(BBS)
- Timed Up and Go test(TUG)
- 10m歩行速度
- 患者による歩行安定感の自己評価(0~10点)
研究の結果
- Berg Balance Scale(BBS)
• 介入群:平均で約7点の大幅なスコア改善(p<0.05)
• 対照群:軽度の改善(群間差も有意)
→ 静的・動的バランス力が著しく向上
- Timed Up and Go(TUG)
• 介入群:平均5秒以上の改善(p<0.01)
• 対照群:小幅な短縮(群間差有意)
→ 起立・方向転換・歩行全体の流れが滑らかに
- 10m歩行速度
•両群とも速度改善を認めたが、群間差は有意ではない
- 自覚的歩行安定感(subjective walking stability)
• 介入群:「歩くときにふらつかなくなった」「どちらの足に体重がかかっているか分かるようになった」
• 点数も平均3〜4点の自覚的改善(0〜10点評価)
• 対照群:大きな変化なし
この研究が特別な理由
リハビリといえば筋力トレーニングや歩行練習が主流ですが、この研究は「自分の身体の感じ方=身体認知」に焦点を当てた内容です。
実際に、歩く速さだけでなく、“歩くときの安定感”や“ふらつきにくさ”という主観的な安心感まで改善したことが報告されています。
特にBBSとTUGの改善は、日常生活の転倒予防や自立度向上に直結するため臨床的意義が大きいことが考えられます。
歩行速度は短期的には変化が小さいですが、安定感が増すことで将来的な改善に繋がる可能性があります。
身体を「どう動かすか」だけでなく、「どう感じるか」が回復への鍵になることを、科学的に示した貴重な研究です。
また、本研究は介入期間4週間と比較的短いが、有意な改善が見られたことから、身体認知トレーニングの導入は慢性期リハビリに有用と考えられます。
リハビリへの応用
ご自宅で簡単にできる練習を紹介
- 鏡を使って姿勢をチェック
正面や横から自分の姿勢を見て、真っすぐ立てているか確認しましょう。
- スマホで歩く姿を撮影
歩いている自分の姿を動画で撮り、左右の体重移動や姿勢を振り返ります。
- ゆっくり体重移動を感じる練習
立った状態で、右足・左足にゆっくり体重を移動させてみる。どの足にどのくらい体重がかかっているか意識しましょう。
- 歩行中に身体の感覚に注意を向ける
足裏の感触や重心の動きを感じながら歩く練習。
おわりに
この研究は「歩きにくさ」は筋力や運動量の問題だけでなく”自分の身体の感じ方=身体認知”が関係しているという点を示した貴重な報告です。
毎日の生活の中でも、鏡を見て姿勢を確認したり、足の裏の感覚に意識を向けたりとちょっとした工夫で身体認知を高めることが出来ます。
小さな気づきでも継続することで「ふらつかずに歩けた」「自分でバランスが取れた」といった手応えを感じるようになるはずです。毎日少しずつ続けて、自分の身体をもっと感じていきましょう。
このコラムが当事者の方にとって「前より歩きやすくなった」「無意識にバランスが取れるようになった」と感じるきっかけとなれば幸いです。
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