脳卒中患者の筋力・バランス・歩行能力・QOLに対するリアルタイム視覚フィードバックの効果

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)のリハビリテーションに従事する医療従事者の方向けて発信する最新エビデンス情報です。

脳卒中患者の筋力・バランス・歩行能力・QOLに対するリアルタイム視覚フィードバックの効果

本研究の目的

脳卒中亜急性期患者の座位から立位への訓練において,視覚的フィードバックにより上半身と体幹の補償効果を確認し,修正した場合の下肢の筋力とバランス能力および歩行、QOLに与える影響を明らかにすること。

本研究の方法

・【バランス】重心テスト(Center of Pressure test:COP)
・【バランス】Berg Balance Scale(BBS)
・【筋力】手動筋力測定器(ハンドヘルドダイナモメーター)
・【歩行】10m歩行テスト(10MWT)
・【歩行】Time up and go test(TUG)
・【QOL】Stroke-Specific Quality of Life:(SS-QOL)

本研究を実施した被験者は全員で40名。 リアルタイム視覚フィードバックによる座位から立位への訓練を行う実験群(RVF-STS群)が20名、座位から立位への立ち上がり訓練を行う対照群(C-STS群)20名に(無作為に)分類されました。

両群とも全6週間の介入期間中、一般的な理学療法(運動療法、電気刺激療法)を1日1回30分、週5日実施し、さらにRVF-STS群は週5日、1日1回20分のトレーニングを6週間、C-STS群も同様に6週間行っています。

なお、各群5名の患者が退院のため脱落したので、最終的には合計30名が試験に参加したことになりました。

RVF-STSは視覚フィードバックを利用した運動学習法である。要は、自分の姿を鏡などを見ながら訓練する方法のこと。

今回の研究において、参加者にリアルタイムで視覚的なフィードバックを与える装置として『Wii Balance Board』を使用しています。

鏡はモニターのすぐ後ろに設置され、参加者が自分のトレーニングをリアルタイムで確認できるように視覚的なフィードバックを随時提供し、さらに、鏡の中央に蛍光色のテープを貼り、顔、胸、腹に印をつけることで、参加者ができるだけ中心を維持しながら座位から立位への動作を行えるように工夫されています。

RVF-STS群に振り分けられた患者様は、本格的なリハビリに入る前に鏡に記された蛍光テープの表示に従って、顔、胸、腹の中心をできるだけ維持しながら立ち上がるよう指導されました。

訓練中は、一定の速度、かつ正しい姿勢で立ち上がるよう動作の重要性を強調し指導を行っています。 なお、患者様に疲労感や顔色の変化、痛みなどが生じた場合はすぐにトレーニングを中止しました。

本研究の結果

バランス能力

バランス能力のアウトカムとなっているCOPとBBSですが、この2つのアウトカムはRVF-STS群がC-STS群に比べ有意に向上していたことが明らかになりました。 つまり、バランス能力に関してはRVF-STS群に軍配が上がったようです。

 介入前介入後
RVF-STS群COP:94.11cm BBS:37.2点COP:72.93cm BBS:51.3点
C-STS群COP:95.99cm BBS:41.6点COP:82.10cm BBS:47.7点

筋力

RVF-STS群では、股関節屈筋が9.66kgから12.46kgへ、股関節伸展筋が9.44kgから11.66kgへ、膝関節伸筋の筋力が14.66kgから19.96kgに増加しC-STS群に比べて有意な改善がみられました。 ちなみに、C-STS群の結果は以下のようになっています。

・股関節屈筋:9.87kg→11.17kg
・股関節伸展筋:9.48kg→10.32kg
・膝関節伸展筋:15.75kg→17.82kg

歩行

歩行に関しても、アウトカムである10m歩行そしてTUGともにRVF-STS群の方がC-STS群に比べて有意に向上したようです。

 介入前介入後
RVF-STS群TUG:20.7秒 10MWT:26.1秒TUG:16.7秒 10MWT:11.4秒
C-STS群TUG:20.9秒 10MWT:20.2秒TUG:19.3秒 10MWT:15.1秒

この結果を見ると、RVF-STS群の10m歩行の伸びがとんでもないことが分かりますね。

10秒以上歩行スピードが速くなっています。

ただ、この10m歩行に関して懸念点があるとすれば、C-STS群に比べてRVF-STS群の方が介入前の平均スピードが遅いことです。(約6秒)

結果だけ見ると、10秒以上速くなっているように見えますがベースラインがそもそも違うので、この点はある種盲信しすぎないことが大事かもしれません。

QOL

QOLのアウトカムはSS-QOLですが、これに関してもRVF-STS群の方がC-STS群に比べて有意に向上したようです。

 介入前介入後
RVF-STS群SS-QOL:150.0SS-QOL:116.6
C-STS群SS-QOL:164.9SS-QOL:144.1

このスコアに関しては、RVF-STS群のとても大きな伸びを感じます。 つまり、それだけ生活の質が向上しているということですね。

本研究からの学び

それでは、以上の結果を踏まえて臨床への示唆を最後にお伝えしていきたいと思います。

今回、リアルタイム視覚フィードバックによる立ち上がりトレーニングを行うことによって、普通の立ち上がりトレーニングに比べて筋力・バランス・歩行・QOL全てにおいて有意な向上が見られました。

この結果は、今後脳卒中後のリハビリテーションを進めていく際にリハビリ方法のオプションとして大きな武器になるかもしれません。

ただし、ここで大切なことは今回対象となった患者特性と実施頻度です。

この研究で対象となった30名の脳卒中後遺症患者様は発症から3ヶ月〜6ヶ月経過し、かつコミュニケーション、作業理解、指示に従うことができ、 Mini-Mental State Examination(MMSE) スコアが21点以上ある者という縛りがあります。

加えて、能力レベルで見ると座位で手を使わずに自立した立位動作ができ、かつ自立した立位姿勢を1分以上維持できる者となっています。

そして、冒頭でお伝えしたようにリハビリの頻度は週5日一日一回20分(計6週間)というのが条件です。

この点を踏まえた上で臨床で応用できると良いかと思います。 この知見が皆さんの明日の臨床の一助になれば幸いです。

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参考文献

The Effects of Sit-to-Stand Training Combined with Real-Time Visual Feedback on Strength, Balance, Gait Ability, and Quality of Life in Patients with Stroke: A Randomized Controlled Trial.Hyun SJ,2021  

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