この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。
ぜひ、明日からの臨床にお役立てください。
臨床現場で「Timed Up and Goテスト」は、移動能力や転倒リスクの評価としてよく使用されていると思います。
転倒リスクが評価できるからと、何気なく使用している方も多いのではないでしょうか?
今回は、「Timed Up and Goテスト」の結果からなぜ評価が必要なのか、その目的や関係性について解説します。
Timed Up and Go Testの結果と寝返り動作の関係性とは?
本日ご紹介する論文
研究の目的
脳卒中患者においてTimed Up and Go (TUG) テストが、麻痺側への方向転換と非麻痺側への方向転換が寝返り動作にどのような影響を与えるか検証すること。
Timed Up and Go Test(TUG)とは?
生活機能、歩行能力を正しく評価する上で、TUGテストは信頼性が高く、下肢筋力、バランス,歩行能力、易転倒性といった日常生活機能との関連性が高いことが証明されており、身体機能評価として広く用いられています。
対象者
人数:113名
組み入れ基準
- 医師により脳卒中と診断された方
- コミュニケーションが可能であり、簡単な命令に従うことができる
- 歩行補助具の使用に関わらず、10m以上の歩行が自立
- 修正Ashworthスケール2点未満
除外基準
- Mini-Mental State Examinationスコア24点未満
- 視覚または前庭障害
- 整形外科疾患を有する方
介入方法
被験者は、10m歩行テストの歩行速度によって、重症歩行機能障害(SAD)と中等症歩行機能障害(MAD)群に分類した。
- 重症歩行機能障害(SAD)群:歩行速度48m/分未満
- 中等症歩行機能障害(MAD)群:歩行速度48m/分以上
Time up and Go Test(TUG)
麻痺側と非麻痺側を各3回ずつ実施していただき、各3回の平均値を算出した。
どちらを先に行うかはコインで決め、1回の測定ごとに麻痺側・非麻痺側を交互に6回実施した。
試験に使用した椅子は、高さ43cm、肘掛けの高さ63cm、背もたれ付きであった。
10m歩行テスト
14mの直線を設けて、最初と最後の2mを加速・減速のために除き、中央の10mを課題遂行時間の測定に使用した。
3回の測定値を平均値とし、各測定のインターバルを30秒間設けた。
アウトカム
- Time Up and Go Test(TUG)
- 10m歩行テスト
- 寝返り動作
結果
結論として、脳卒中患者様においてTUGと寝返り動作には密接な関係があることが明らかになりました。
TUGテストでは麻痺側が軸の方向転換より、非麻痺側が軸の方向転換にて時間を要しています。
また寝返り動作においても、麻痺側方向への寝返りより非麻痺側方向への寝返りがより時間を要していることがわかりました。
つまり、非麻痺側を軸にして行う方向転換や寝返り時に転倒リスクが生じやすいと考えられます。
10m歩行においては有意差が見られていません。
臨床的解釈
以上の結果から、結論として脳卒中におけるTUGと寝返り動作は非麻痺側への方向転換は行いにくいということが分かりました。
この結果自体、想定内と思われた方もいらっしゃると思います。
今後TUGを評価するにあたり、踏まえておいて頂きたいこととしてTUGの構成要素は…
・椅子からの立ち上がり
・直線歩行
・方向転換
から成り立っており、寝返りはその中に含まれる方向転換と強く関連があることです。
TUGの結果を見て、カットオフ値を上回っている場合は、移動能力の低下や転倒リスクがあると済ませるのではなく、寝返り動作も同時に評価することにつなげられるかと思います。
今後、臨床で評価する際に参考にしてくださると幸いです。
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参考文献
Effect of turning direction on Timed Up and Go test results in stroke patients.Son H,2018