この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。 今回のテーマは「膝を動かすのは○関節だった!」です。


脳卒中を経験された方の中には このような悩みを抱える方も多くいらっしゃいます。 この特徴的な歩行は「SKG(Stiff Knee Gait:スティッフニーゲイト)」と呼ばれ、以前は「太ももの筋肉(大腿直筋)の緊張が原因」とされてきましたが、最新研究ではそれだけでは説明できないことが分かってきました!
【脳卒中リハビリ】反張膝の改善!膝を曲げる力はどこから生まれるのか?
参考文献
今回の論文は2025年5月に発表された論文です。
研究の概要
この研究は、膝が曲がらない原因は膝そのものではなく、「膝が動くための力の流れが途切れているのではないか」ということを明らかにするために行われました。
対象者と測定方法および評価項目
- 慢性期脳卒中の方20名と、年齢を合わせた健常者20名
三次元歩行分析(モーションキャプチャ+床反力計)で歩行を解析し、関節の力を以下の3つに分けて評価
- 筋肉が直接生み出す力(能動トルク)
- 重力のかかり方による力の変化(重力トルク)
- 関節の動きが他の関節に伝わる力(分節間トルク)
研究の結果
この研究により、以下の結果が示されました。
膝の筋力(能動トルク)
膝の筋力は健常者とほぼ同じ。→ 膝そのものの筋力低下は主因ではない。
重力のかかり方(重力トルク)
重力自体は下向きにかかりますが、その重さの中心(重心線)が膝の前側か後ろ側かで膝の動きやすさが変わります。
- 健常者:立脚終期〜遊脚初期に体が前へ倒れ、重心線が膝の後ろ側に移り、膝が曲がりやすい。
- 脳卒中者:体幹前傾が弱く、重心線が膝の前に残るため、膝が伸びやすくなる。
→ 重力のかかり方が膝の動きを邪魔している。
遊脚初期:太ももが前へ動き始める瞬間(膝が自然に曲がる)
他の関節から伝わる力(分節間トルク)
ここが本研究の核心!
重要なのは、この数値が股関節や足関節の筋肉そのものが出す力(能動トルク)の低下であるという点です。
股関節の能動トルクが弱くなると、その動きが膝に十分に伝わらなくなり(分節間トルクが低下)、結果として膝を曲げるための勢いが失われてしまいます。つまり、 股関節の力不足が膝へ伝わる力の不足を引き起こしていたのです!
脳卒中後の歩行の特徴
- 押し出し(足関節の能動トルク)が弱い
- 太ももの振り出し(股関節能動トルク)が半減
- 重心の位置が膝の前側に残る
これらが重なり、膝が曲がる条件が揃わなくなります。
リハビリへの応用
今回の研究結果を踏まえ、リハビリとして以下のような方法が考えられます。
立脚終期の助走をつくる
- 踵→つま先への体重移動
- 壁押しで足裏の押し出し練習
- 前傾姿勢での push-off
遊脚初期の太ももの前への振り出しを強化(股関節の能動トルクそのものを高める)
- 腸腰筋タップ+軽い振り出し練習
- 骨盤ごと前にスッと送る練習
- 立位での太ももスイング
重力のかかり方を整える
- 軽い体幹前傾を意識
- プレスイング期の体幹位置フィードバック
- 股関節伸展のタイミング練習
おわりに
SKGは「膝が悪い」のではなく、膝が動くための流れが失われていたことが原因です。
足の押し出し(能動トルク)
太ももの振り出し(股関節の能動トルク)
重心のかかり方(重力の位置)
この3つが整えば、膝は動かすのではなく自然に動かされるようになります。
この研究が、皆様の日々のリハビリのヒントになれば幸いです。
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