【脳卒中リハビリ】転倒を防ぐカギは「脳の反応速度」だった!

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。

今回のテーマは「転びそうになったとき、なぜ身体がうまく反応できないのか?」です。

「歩いているときに足がもつれてしまう…」

「転びそうになったときにとっさに足が出ず、ふらついてしまう…」

脳卒中を経験された方の中には、このようなバランスの問題に悩まれている方も多くいらっしゃいます。

これらは筋力の低下だけが原因ではなく実は脳が、バランスを崩したことを認識し対応するまでの反応速度 が大きく関係していることをご存じでしょうか?

最新の研究によると、脳卒中後の患者さんではバランスを崩した際の脳の反応が遅れることが、転倒のリスクや歩行の不安定さに深く関わっていることが明らかになっています。

今回は2025年に発表された最新の研究をもとに、脳卒中後のバランス障害についての理解を深めるとともに、効果的なリハビリ方法についてお伝えします。

【脳卒中リハビリ】転倒を防ぐカギは「脳の反応速度」だった!

参考文献

今回の論文は2025年1月に「Neurorehabilitation and Neural Repair」誌で発表された論文です。

Delayed cortical responses during reactive balance after stroke associated with slower kinetics and clinical balance dysfunction. Jacqueline A. Palmer他,2025

研究の背景

脳卒中後はバランス能力の低下が転倒リスクを高める要因のひとつとなっています。

研究によれば、年齢を重ねることでバランスの制御が大脳皮質に依存する傾向が強まりますが、脳卒中後はこの依存がさらに強くなりバランスを崩したときの脳の反応速度が遅くなることで、転倒リスクが高まることが分かっています。


また、脳卒中の影響で麻痺側と非麻痺側の足の機能に差が生じ、特に麻痺側に負荷がかかったときのバランス回復能力が低下することが示唆されています。

これらのメカニズムを理解するために検証が行われました。

研究の目的

この研究では、脳卒中後の患者さんの脳の反応(N1反応)と、実際のバランス能力との関連を明らかにすることを目的としています。特に以下の点が検証されました。

脳反応の速度と強度

バランスを崩した際の脳波(N1反応)の反応速度や強度が、バランス能力や歩行能力にどのように関連しているか。

麻痺側と非麻痺側の影響

麻痺側や非麻痺側に負荷がかかった際に、脳の反応やバランス回復能力にどのような違いがあるか。

健常者との比較

健常者と比較することで、脳卒中後に特有の脳反応の変化を明らかにする。

研究の概要

対象者

  • 慢性期脳卒中の患者18名と、年齢を一致させた対照者16名(17名が参加し、1名が途中で辞退)
  • 介助なしで10m以上歩行可能
  • 介助なしで3分間立っていられる方

評価内容

以下の状況でバランスを崩す負荷を与え、脳波(N1反応)とバランス回復反応を脳電図(EEG)を用いて記録しました。

  1. 両足に均等な負荷がかかる条件
  2. 麻痺側の足に負荷がかかる条件
  3. 非麻痺側の足に負荷がかかる条件

さらに、以下のテストを通じて、臨床的なバランス能力を評価しました。

  1. miniBESTテスト(バランス機能を評価する検査)
  2. Timed-Up-and-Goテスト(TUG:起立・歩行・着座の動作時間を測定)
  3. 歩行速度の測定

研究結果

この研究より以下のことが示唆されました。

脳波反応の遅れ

脳卒中後の患者さんでは、バランスを崩した際のN1反応が健常者よりも平均23ms遅れ、反応の大きさ(振幅)も低下していました。これは、脳がバランスの崩れを認識し、対応するまでの時間が遅いことを示しています。

麻痺側への負荷の影響

麻痺側に負荷がかかると、特に脳の反応遅延が顕著であり、バランスを回復する能力が低下していることが分かりました。

脳卒中患者さんが麻痺側に転倒しやすい一つの要因になるかもしれませんね

臨床的な関連性

脳の反応が遅いほど、miniBESTスコアやTUGテストなどのバランス機能や歩行速度が低下していることが示されました。

代償戦略の限界

麻痺側をうまく使えない場合、非麻痺側に頼る代償戦略が取られがちですが、これでは根本的なバランス能力の改善には繋がらないことが明らかになりました。

リハビリへの応用

この研究から得られた知見を活かし、リハビリでは次のような具体的な方法を取り入れることが有効だと考えられます。

脳の反応速度を改善する

突然のバランス負荷に対応する練習:バランスボードや不安定な面でのトレーニング

麻痺側の足を積極的に使う

麻痺側に負荷をかける練習:麻痺側の足で体重を支える(片足立ちやステップ練習など)

視覚や感覚の統合

視覚に頼らずバランスを取る練習:目を閉じた状態での立位バランスや視線を固定したままの歩行(体性感覚や前庭感覚を活性化)

これらはとても不安定な状況での練習ですので、手すりのそばなど必ず安全を担保した上での実施をお願いいたします。

おわりに

脳卒中後のバランス障害は、筋力の低下だけでなく、脳の反応速度の遅れが大きな要因であることが明らかになりました。

この研究では、脳の反応を改善することが、バランス能力や歩行能力の向上につながることを示唆しています。

ご自身の状態に合わせたリハビリを行うことで転倒のリスクを軽減し、不安なく歩ける状態を取り戻して、より快適な生活の一歩に繋がれば幸いです。

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