【脳卒中】物理療法は下肢機能の改善に繋がるのか?

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。

今回は、体性感覚トレーニングに関連する記事です。

この記事を読んでくださっている方々の中で「体性感覚」とは、どのような認識をされていますか?

「体性感覚」は、身体の位置や動きに関する情報を感じる感覚のことを言います。

『立っている時の床の感触』『ソファーに座った時の椅子の感触』など、これらを感じているのも全て人間の体には体性感覚が兼ね備わっているからです。

目を閉じた状態でも立っている時の床の感触や、ソファーに座れたりするのは、体性感覚がきちんと身体の中で感じ取れているから情報をキャッチし、頭の中で動きを想定しているからです。

しかし脳卒中を発症すると、この身体から発生している情報が脳の中で上手く伝わなかったり位置や動きが感じにくくなったりして、動作がうまく行えないことに繋がってしまいます。

こういう動きの認識のズレが起きてしまうので、体性感覚は私たちにとって欠かせない大切な感覚なのです。

そこでこの記事では、体性感覚を取り入れるリハビリを行うことでどれだけパフォーマンスが向上するのか、その関係性について解説していきます。

はじめに

今回、参考にさせていただいた論文はこちらです。

Impact of Somatosensory Training on Neural and Functional Recovery of Lower Extremity in Patients with Chronic Stroke:A Single Blind Controlled Randomized Trial. Alwhaibi R,2021

対象者

  • MRIで片麻痺が確認された初発の虚血性脳卒中患者30人

組み入れ基準

  • 発症期間が6〜18ヶ月内
  • 医学的に安定している
  • MMSEが24点以上
  • MAS(Modified Ashworth Scale)でグレード1、1+または2
  • Brunnstrom Recovery Stageで4または5
  • NSA(Nottingham Sensory Assessment)スケールで触覚と立体認知が2、運動覚が3

除外基準

  • 心不整脈
  • コントロールされていない高血圧
  • 閉塞性肺疾患
  • 温熱適用の禁忌
  • 脳卒中以外の整形外科的または神経学的既往症がある方

研究方法

この研究はランダム化比較試験にて行われ、対照群体性感覚トレーニング群の2つに分けられました。

対照群

  • 自転車エルゴメーター25分(ウォームアップ、クールダウン含む)
  • 下肢の等張性収縮運動15分(股関節・膝関節・足関節)
  • ストレッチ10分(下肢)
  • 起立練習10分

以上の4項目を実施しました。

体性感覚トレーニング群

  • 自転車エルゴメーター15分(ウォームアップ、クールダウン含む)
  • 下肢の等張性収縮運動10分(股関節・膝関節・足関節)
  • ストレッチ5分(下肢)
  • 起立練習5分

以上の4項目を実施後に、追加で触覚・聴覚・視覚を活用した熱刺激トレーニングを実施しました。

ホットパック15秒下肢(麻痺側)の筋力増強トレーニング30秒アイスパック30秒を10回繰り返しました。

※下肢の筋力増強トレーニングの際に、セラピストの口頭指示(聴覚刺激)四肢に刺激(触覚刺激)鏡を使用し自分の体の状態を確認(視覚刺激)して、可能な限り麻痺側を動かすように指示され運動を行いました。

各分類ともに週3回、8週間行いました。
各セッションの前にバイタルサインを測定し、トレーニング終了後にもう一度測定した。

アウトカム

  • 機能的自立度評価表 Functional Independence Measure(以下FIM)

今回研究で使用された評価項目が以下の通りです。

○移乗…ベッド/椅子/車椅子

○トイレ

○入浴…浴槽/シャワー

○運動…歩行/車椅子

○階段

  • 定量的脳波検査 (QEEG)

脳波(QEEG)は、運動野(運動)頭頂部(感覚)前頭部(学習)に分けて測定しました。

定量的脳波検査 (QEEG)とは?
Quantitative Electroencephalographyの略で、脳波の定量的な分析を行う。通常の脳波検査とは違い、数値化されたデータを用いて分析を行います。

結果

・FIM
介入前(平均±標準偏差)介入後(平均±標準偏差)
体性感覚トレーニング群: 29.26±1.86体性感覚トレーニング群: 33.26±1.27
対照群: 29.2±1.61対照群: 31.2±1.78

 

・運動野(運動)
介入前(平均±標準偏差)介入後(平均±標準偏差)
体性感覚トレーニング群: 3.75±0.37体性感覚トレーニング群: 4.38±0.41
対照群: 3.86±0.42対照群: 4.19±0.44

 

・頭頂部(感覚)
介入前(平均±標準偏差)介入後(平均±標準偏差)
体性感覚トレーニング群: 3.85±0.49体性感覚トレーニング群 4.22±0.37
対照群: 3.95±0.51対照群: 4±0.41

 

・前頭部(学習)
介入前(平均±標準偏差)介入後(平均±標準偏差)
体性感覚トレーニング群: 3.77±0.47体性感覚トレーニング群: 4.13±0.41
対照群: 3.8±0.44対照群: 3.9±0.45

介入前と介入後を比較すると、どの項目においても介入後の方が数値が上がっており、治療効果があったと言えます。

今回、脳波を取っている領域は全て下肢の領域に関わっているところでもあります。

臨床的解釈

今回の研究から示唆されること…

ホットパック・アイスパック(寒冷療法)下肢の筋力強化トレーニングを同時に取り入れることで、脳卒中の方でも下肢機能の改善は見込めるということです。

ではどのくらいの頻度で行えば良いのか?

この研究からも読み取れるように頻度と期間は、最低でも週3回以上8週間は続けて行うことが必要かと思います。効果の持続性といったところは、3ヶ月まで持続したという報告はありますが6ヶ月、1年以降持続した報告はほとんどないです。また研究の数自体も少なく、これからの課題であることも現状にあります。

そして、他の物理療法や外部刺激を使って行うトレーニングや、脳卒中患者様に対してのリハビリにおいても上記と同じ期間行っている研究が多く見られます。

実際に行っているリハビリだけで難しい場合は、自主トレーニングを提示すると頻度を担保できるのではないかと思います。

ぜひ、明日からの臨床に活かしていただけると幸いです。

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