この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。
脊髄損傷患者において、日常生活での機能向上を目指すためのリハビリテーションはとても重要です。
その中で、リハビリテーションの現場、もしくは自宅でも行える評価の一つに『5回立ち上がりテスト』というのがあります。
この評価は、下肢の筋力やバランスを評価する上で有用なツールとされていますが、現在このテストにおける最小限の臨床的に重要な差異(MCID)は明確にされていませんでした。
本記事では、脊髄損傷患者様に焦点を当てた研究の結果を通じて、5回立ち上がりテストのMCIDがどれくらいかを明らかにし、その意義について解説します。
これにより、リハビリテーションの効果を適切に評価し、脊髄損傷患者様の機能回復に向けた効果的な治療プランの策定に役立てることができます。
ぜひ、最後までご覧いただき明日の臨床に活かしていただけると幸いです。
はじめに
今回参考にさせて頂いた論文はこちらです。
この論文は、脊髄損傷を患っている歩行が可能な患者様において、5回座ってから立ち上がるテスト(five times sit-to-stand test)の感度と最小臨床的重要差(MCID)を調べることを目的としています。
最小臨床的重要差(MCID)とは?
最小臨床的重要差(Minimal Clinically Important Difference, MCID)とは、ある治療や介入が実際に患者さまにとって意味のある改善をもたらしているかを評価するための指標です。
これは、治療の効果が統計的に有意であることとは異なり、患者が実際に感じる改善や悪化の程度を示します。(ここ重要)
たとえば、今この記事をご覧いなっているあなたが風邪をひいたとします。
あなたは病院に行き、そこでお医者さんが薬を処方してくれました。そして、その薬を飲んであなたの風邪の症状がちょっとだけよくなったと感じたら、それが最小臨床的重要差(MCID)です。
つまり、その薬が実際に効果があってあなたにとって意味のある改善があったということです。
この研究では、5回立ち上がりテストがどのくらい(〜秒)改善すると「良くなった」と脊髄損傷患者様本人が実感できるのか、それを調べた研究です。
研究方法
研究方法として今回対象となったのは、脊髄損傷後(歩行補助器具を使っても使わなくても)少なくとも10メートル歩行できる109人の被験者で、彼(彼女)らに対して6か月間の前向きコホート研究が行われました。
被験者は、ベースライン、1か月後、3か月後、6か月後の4つの時点で、5回立ち上がりテストを行いテストの感度を判断しました。
また、今回の研究のポイントは『内部的反応性』と『外部的反応性』という2つの指標を用いている点です。
『内部的反応性』と『外部的反応性』は、そのテストがどれだけ効果的に機能しているかを評価するための言葉です。
内部的反応性とは
これは、テストがどれだけ変化や違いを見つけるのが上手かを測るものです。
例えば、ある運動の練習を始めた人がいて、その前後でどれだけ上達したかを調べるテストがあるとします。
そのテストが変化をちゃんと見つけられるかどうかを内部的反応性という尺度で評価します。
内部的反応性が高いと「そのテストは変化をうまく見つけられる」と解釈することができるワケです。
今回の研究でも、『5回立ち上がりテスト』の内部反応性が高いかどうかを明らかにすることも一つの研究課題となっています。
外部反応性とは
これは、テストの結果が他のテストや基準とどれだけ関連しているかを測るものです。
同じ例で、運動の練習の前後の上達度合いを調べるテストがあるとしましょう。
他にもっと有名で信頼性のあるテストがある場合、その2つのテストの結果が似ているかどうかを調べることで、外部のテストとの反応性を評価することができるのです。
外部的反応性が高いと、そのテストは他のテストや基準とよく関連していると言えます。
実は、この研究のサブテーマとして、「脊髄損傷患者における5回立ち上がりテストと10m歩行テストの関連性を調べる」というのがあります。
じゃあ、どうやって関連性を見るのか?というと上記で解説した外部反応性を調べるワケですね。 では、それらを踏まえた上で結果を見ていきましょう。
研究の結果
この研究から得られた結果を以下に示します。
- MCID:
手を使って実施した場合は2.27秒以上、手を使わない場合は2秒以上の変化が、臨床的に最小の重要な変化を示す指標として使用できる。 - 内部反応性:
5回立ち上がりテストは、大きな内部反応性を示す(標準化された反応平均 > 0.83)。 - 外部反応性:
10m歩行テストと比較して、中程度の外部反応性がある(ρ = -0.28 から -0.48、p < 0.005)。
臨床への示唆
今回の研究結果から臨床へ活かせること。
それは、脊髄損傷患者様のリハビリテーションを進めていく際に、5回立ち上がりテストを一つのアウトカムにできるという点です。
というのも、今回の結果から手を使った場合は2.27秒以上、手を使わない場合は2秒以上の変化がMCIDというのが明らかになりました。
これはつまり、ベースライン期(初期)に比べて最終評価において一つのアンカーになり得るワケです。
もちろん、「改善した!」と感じるのはセラピストではなく患者様本人なので全ての人にこの数字が当てはまるわけではありませんが、漠然と理学療法や作業療法を進めていくよりかは良いのではないかと思います。
また、5回立ち上がりテストが10m歩行テストと中等度の関連性があることも明らかになったため、歩行能力を包括的に評価する一つの指標としても5回立ち上がりテストを臨床で活用することは意味があるではないかと考えています。
それでは、今回は以上となります。 最後までご覧いただきありがとうございました。
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参考文献
Responsiveness and minimal clinically important difference of the five times sit-to-stand test in ambulatory individuals with spinal cord injury: A six-month prospective cohort study.Amatachaya S,2023