この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。
皆さんは、『運動イメージ』をリハビリテーションの現場で活用されているでしょうか?
運動イメージは「パフォーマンスの向上につながりやすい」という理由から、随意運動が思うようにできない患者様や実際に運動する前に用いている理学療法士や作業療法士の方もいらっしゃるかもしれません。
とはいえ、まだまだ運動イメージの重要性や使い所がイメージしづらい方も当然いるのではないかと思います。
そこで、今回はそのような疑問にもお応えできるように実際にリハビリを行う上で、なぜ『運動イメージ』が大切なのか?
この点について先行研究を参考に解説していきたいと思います。ぜひ、明日の臨床にお役立ていただけると幸いです。
はじめに
今回、参考にさせていただいた論文はこちらです。
Enhancing upper-limb neurorehabilitation in chronic stroke survivors using combined action observation snd motor imagery therapy.Binks J,2023
研究の目的
本研究は慢性脳卒中患者様のリハビリを進めていく上で、行動観察と運動イメージ療法を併用し、上肢機能の回復に効果をもたらすのか?
という疑問を検証することを目的として実施されました。
対象者
- 脳卒中患者10名
組み入れ基準
- 脳卒中の診断がある方(脳の病変部位は制限なし)
- 発症より6ヶ月以上経過している方
- 75歳未満の男女
- 視覚障害がない方
- 過去に運動イメージ療法の経験がない方
除外基準
- Visual Analog Numeric Pain Distress Scale(VAS)のスコアが5以上
- 麻痺側に手関節・手指に完全麻痺がある方(随意運動がない方)
- 認知機能障害がある方(Kingshill Version 2000の6CITで8/10未満のスコアがある場合)
- 半側空間無視がある方
- 中等度もしくは重度の失語症がある方
- MIQ-3が麻痺側で5/7未満、非麻痺側で4/7未満である方
0〜28点で評価し、点数が高いほど再現性が高い。
研究方法
行動観察群、運動イメージ療法群、行動観察+運動イメージ療法群、コントロール群の4つの分類に分けて行いました。
各分類ともに『カップを積み重ねる』という課題をもとに実施されました。
行動観察群
運動イメージ療法群
カップを積み上げる一連の流れの静止画を閲覧しました。
この時に動作を実行する場面を想像することと、想像した動きを『感じる』ことに重点を置くように指示されました。
行動観察+運動イメージ療法群
動作を実行する場面の想像と、カップを動かす時の動きを想像して行うよう指示されました。
この時に運動イメージ療法と同様の指示とプラスで、画面に表示されている点の写る速さのタイミングで動きを実行している自分を想像するように指示されました。
課題を試行する分類の方々は、休息は各分類のテスト間に取り、5分間で16回ずつ行いました。
アウトカム
- SIS(Stroke Impact Scale)…脳卒中における影響を評価
- MIQ–3
- Action Research Arm Test (ARAT) …上肢のパフォーマンスを評価
結果
行動観察
実施後のテストで、カップを積み重ねる動作の大幅な時間の短縮は見られませんでした。
運動イメージ療法
実施後のテストで行動観察と同様に、動作の大幅な時間の短縮にはつながりませんでした。
行動観察+運動イメージ療法
実施後のテストで、動作の時間が短縮しました。
また、麻痺側で行うイメージを行うよりも非麻痺側で行った動作を見る方が、上肢のパフォーマンスは非麻痺側・麻痺側ともに向上につながりましたが、非麻痺側の方がより大きく向上しました。
臨床的解釈
今回の結果から、得られたことは結論から言いますと『行動観察+運動イメージ療法』がパフォーマンス向上に繋がるということです。
また、麻痺側での運動をイメージするよりまずは非麻痺側で運動をイメージする方がより効果的ということも言えます。
行動観察をすることが、他人の行動や動きを見て、その情報を受け取った脳の役割を担っている領域が活性化されます。
そして活性化される領域は、動作を計画し実行する役割と他人の行動を観察することの二つが、似たような行動を脳が見極め模倣する能力との関連が他の先行研究からも示唆されています。
一方の運動イメージ療法は、物を触ったり、動作を行うことでの感覚フィードバックの要素が含まれており、動作を行う際のイメージと実際の動作の誤りを学習し、その上で修正するという機能を担っている脳の部位が活性化されます。
つまり、他人の動かしている動きを見ることで、実際に自分の脳でもその動きに関わる部分が活性化されているということです。
そして、麻痺側であると誤った運動をイメージしてしまうこともあるので、正しい動きを学習しやすい非麻痺側の方が効果的であるのだと言えるのです。
そして、この研究後に参加者へアンケートを取っていたのですが、その中にあった一つの意見が…
『映像で見ることと、非麻痺側で行うとより頭でイメージしやすかった』ということでした。
ではこの意見を臨床に抽象化する場合、どのように考えれば良いのか…?
上記の結果の通りですが、まずはビデオや他人が行っている動きを見て同じ動作を麻痺側で行ってみること。
その時に麻痺側で行った動きが誤っていた場合やイメージすることが難しい場合は非麻痺側でも大丈夫なので行ってみると良いでしょう。
なお、運動イメージに関する脳機能の仕組みについての関連記事はこちらにありますので、併せてご覧ください。
この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。 ぜひ、明日からの臨床に[…]
セラピストの方々は、今後このようにまずは映像などで動作を観察してから、運動イメージを行うとより動作の再現性が上がるのではないかと考えます。意識してリハビリに取り組んでいただけると幸いです。
当事者の方々は、その部分を意識して動作の練習を行っていただけるとよりお身体の動きの改善に繋がるかと思います。
参考までにご検討いただけると幸いです。
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