「筋トレをすると痙縮が強くなる」は迷信です

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。 ぜひ、明日からの臨床にお役立てください。

今回は、「筋トレをすると痙縮が強くなるって本当か?」というテーマでお送りしていきたいと思います。

というのも、このテーマは脳卒中のリハビリテーションを行なっていく際に時々耳にすることがるからです。

特に、理学療法士や作業療法士の方から伝えられるケースが多いようで、これによって脳卒中当事者の方の中には「できる限り筋トレはしないようにしている」という方もいたりします。

そこで今回は、過去の研究からこの説が本当なのかどうかを検証していきたいと思います。

タイトルでネタバレ感はありますが、どのような研究なのかも踏まえてご覧いただけると幸いです。

「筋トレをすると痙縮が強くなる」は迷信です

本日ご紹介する論文

本日ご紹介する論文はこちらです。

Resistance training in stroke rehabilitation: systematic review and meta-analysis.Jitka Veldema,2020

研究の目的

脳卒中後の回復を支援するための純粋な筋力トレーニングについて、①介入なしとの比較、②他の介入との比較、③異なる筋力トレーニングとを比較し、脳卒中後における筋力トレーニングの効果を検証すること。

研究の方法

この論文はシステマティック・レビューであるため以下の条件を満たした論文を集めています。

  1. ヒトを対象とした研究であること
  2. 前向き研究であること
  3. 英語で書かれた論文であること
  4. 脳卒中の診断を受けた人が対象であること
  5. 介入としてレジスタンストレーニングを採用していること
  6. 介入前後の評価が行われていること
  7. 少なくとも二つの実験グループで比較検証がされていること
  8. 少なくとも5人の患者が参加しランダム割り付けされていること

レジスタンストレーニングに追加的な介入を加えた研究に関しては今回除外されています。

なお、これによって調べられた脳卒中患者様は1051名となっています。

※今回は、①介入なしとの比較、②他の介入との比較の結果を示します。

結果① レジスタンストレーニングVSリハビリなし(介入なし)

筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動

結論、脳卒中後において何も介入しないよりかはレジスタンストレーニングを行った方が良いです。

レジスタンストレーニングを行うことで改善が見られるものは以下です。

  • 下肢筋力の向上
  • 生活の質(QOL)の向上
  • バランス能力の向上
  • 姿勢制御能力の向上
  • 歩行能力の向上
  • 痙縮や筋緊張の状態の改善

これは、「そりゃそうですよね」というのがおそらく感想だと思います。

脳卒中後、何もしないよりかは筋トレなり体をしっかり動かしていくというのはとても大切になります。

特筆すべきは、一番下にある『痙縮や筋緊張の状態』です。

筋トレをすると、筋肉が硬くなったり痙縮が強くなってしまうといった説が唱えられていますが結論、そんなことはありません

これまで痙縮が強くなることを恐れて筋トレを躊躇していた脳卒中当事者の皆様、どうか安心してトレーニングを行ってください。

習慣的に筋トレを行うだけで、何もしないよりは圧倒的に得られるものが多いかと思います。

結果② レジスタンストレーニングVSその他の介入

・自転車エルゴメーターを使ったトレーニング
・ストレッチ
・受動的モビライゼーション(マッサージみたいなもの)
・関節可動域訓練

結論、一長一短ありますが、総合的に見るとレジスタンストレーニングの効果が最も高いです。

レジスタンストレーニングがその他の介入に比べて優れている点

  • 下肢・上肢の筋力UP
  • 運動機能UP
  • QOLの向上
  • 自立・社会復帰への寄与

逆にその他の介入の方がレジスタンストレーニングよりも優れていた点は以下です。

  • 心肺機能:レジスタンストレーニングよりも自転車エルゴメーターの方が優れている。
  • 歩行能力:ストレッチよりは優れているが、モビライゼーションや関節可動域訓練よりも効果が低い。

ここでポイントになってくるのは、レジスタンストレーニングによって筋力自体は向上する一方、脳卒中後テーマとなりやすい『歩行能力の改善』についてはその他の介入の方が優れているという点です。

つまり、筋力がついたからといってそれに相関する形で歩行能力も伸びるわけではないということです。

まとめ

今回の話しのまとめに入ります。

冒頭でお伝えした、「筋トレをすると痙縮が強くなるの?」という疑問ですが、これに関してはシステマティック・レビューの結果、「筋トレをしても痙縮が強くなることはない」ということが明らかになりました。

よって、先ほどもお伝えしましたが今後もリハビリの一つとして筋トレを行って頂いても大丈夫かと思います。

ただし、筋トレだけでは効果が限られている部分もありますので、可能であればその他のリハビリ(自転車エルゴメーターなど)なども組み合わせることができると尚良いので参考までにご検討頂けたらと思います。

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参考文献

Resistance training in stroke rehabilitation: systematic review and meta-analysis.Jitka Veldema,2020

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