この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。 ぜひ、明日からの臨床にお役立てください。
認知と運動、運動のデュアルタスクは日常生活上で重要な役割を示します。
※『デュアルタスク』とは、同時に2つ以上の異なる課題を行うことを言います。例えば、『歩きながら電話で話す』や『料理をしながら会話をする』などが挙げられます。
なぜ、これらが重要になってくるのか。
脳卒中患者様において、日常生活の中で歩きながら話すことや、歩きながら障害物を避けるなどの、いわゆるながら動作を実行する能力の低下が見受けられる傾向にあるからです。
また、その部分の能力の低下が、社会復帰を遅らせてしまったりする原因につながるとも言われています。
それらを踏まえて、今回はながら動作の効果を知るために、計算をしながら歩くことのみで歩く速度が改善されるのかを検証した研究をご紹介していきたいと思います。
【脳卒中リハビリ】ながら動作をすることで、歩くのが速くなるって本当!?
本日ご紹介する論文
Cognitive and motor dual task gait training improve dual task gait performance after stroke – A randomized controlled pilot trial.Liu Y,2017
研究の目的
脳卒中のデュアルタスク歩行パフォーマンスに対する認知および運動デュアルタスク歩行トレーニングの効果を検証することです。
対象者
28名の脳卒中患者
組み入れ基準
- 発症1回目の脳卒中患者
- 20〜80歳代
- 歩行補助具なしで10m歩行自立
- ペリーラの分類システムにおいて、限定的なコミュニティ内での歩行能力を維持するために必要な歩行速度(35m/min)
- 非麻痺側上肢を使用してトレイを持つことができる
- 医学的に治療や介入に支障がない状態
- MMSE 24点以上
除外基準
- 研究の結果に影響を及ぼす可能性がある神経学的あるいは整形外科的な疾患がある場合
- 歩行トレーニングを妨げる脳卒中以外の併存疾患や障害がある方
- 運動が禁忌とされる、未治療の健康上の問題がある場合
- 研究の結果に影響を及ぼす可能性がある神経学的あるいは整形外科的な疾患がある場合
方法
認知二重課題歩行訓練(CDTT)、運動二重課題歩行訓練(MDTT)、または従来の理学療法(CPT)の 3 つの治療方法のいずれかに参加者を割り当てました。
※認知二重課題歩行訓練とは…同時に複数の認知的タスクを行うことが必要な課題で、例えば、話しながら歩くという課題が挙げられます。
※運動二重課題歩行訓練とは…同時に複数の動作を行うことが必要な課題で、例えば、右手でボールを投げつつ、左手で別のボールを受け取るような課題が挙げられます。
認知二重課題歩行訓練(CDTT)
- あるフレーズ(文章や言葉)を繰り返しながら歩く
- 歩きながら、1、2、3、と数字を1回数える
- 歩きながら、3、2、1、と数字を1ずつ逆順に数える
- 歩きながら、前の単語の最後の文字で始まる単語を発声し、繰り返し歩く
- 歩きながら、自分が知っている詩を朗読し、繰り返し歩く
- 誰かと会話をしながら、繰り返し歩く
- 歩きながら、自分が知っている文章を逆順に暗唱し、何度も歩く
運動二重課題歩行訓練(MDTT)
- 1つまたは2つのボールを手に持ち、歩きながらバランスを保つ
- 両手で傘を持ち、歩きながら傘をさしながらバランスを保つ
- ガラガラを手で持ち、振りながら歩く
- カスタネットを手で持ち、叩きながら歩く
- バスケットボールを手で持ち、歩きながらバスケットボールを跳ねさせる
- ネットに入ったバスケットボールを蹴り、歩きながらバランスを保つ
- 1つのボールを手で持ち、同時にネットに向かって別のバスケットボールを蹴る
従来の理学療法(CPT)
筋力強化、バランス、歩行の目的を持った単一焦点のトレーニング活動が実施されました。この筋力強化には、主に股関節屈筋・伸筋・外転筋、膝屈筋伸筋、足関節底背屈筋が強化されました。バランストレーニングには、次のようなものが含まれます。
- 立位での体重移動
- ボールに対してしゃがみ込み
- 開眼または閉眼してフォームの上に立つ
- 開眼または併願にてタンデム姿勢
- 片足立ち
※測定は、トレーニング介入を開始する前日と介入が完了した翌日に測定されました。
歩行能力を3つの状況下にて測定しました。
- 単純な歩行
- 数字を3つずつ引き算しながら歩く課題(認知運動二重課題)
- 健側の手で水の入ったトレイを持ちながら歩く課題(運動二重課題)
テストは練習や疲労の影響を最小限にするためにランダムで行われ、各間隔は1分の休憩を挟み、2回測定されました。
アウトカム
- 歩行速度
- ケイデンス
- 歩幅
- DTC
結果
今回は、2つ目に行った認知運動二重課題での結果のみこちらに表記します。
認知二重課題歩行訓練(CDTT)
トレーニング前 | トレーニング後 | 変化量 | |
---|---|---|---|
速度(cm/秒) | 56.4±18.0 | 63.4±20.6 | 6.9±11.1 |
デュアルタスクコスト速度(%) | -22.6±11.0 | -15.7±11.3* | 6.9±6.4 |
ケイデンス(歩数/分) | 81.2±13.5 | 86.1±12.9 | 4.8±10.5 |
歩行時間(秒) | 1.52±0.27 | 1.43±0.22 | -0.09±0.20 |
歩幅(cm) | 82.2±20.2 | 88.2±21.4* | 5.9±5.9 |
運動二重課題歩行訓練(MDTT)
トレーニング前 | トレーニング後 | 変化量 | |
---|---|---|---|
速度(cm/秒) | 62.4±13.8 | 63.8±13.7 | 1.4±4.0 |
デュアルタスクコスト速度(%) | -13.9±12.4 | -12.8±14.1 | 1.1±5.5 |
ケイデンス(歩数/分) | 93.7±11.7 | 93.9±10.8 | 0.2±3.2 |
歩行時間(秒) | 1.30±0.16 | 1.29±0.14 | -0.01±0.06 |
歩幅(cm) | 80.2±17.2 | 83.3±17.5 | 3.1±3.7 |
従来の理学療法(CPT)
| トレーニング前 | トレーニング後 | 変化量 |
---|---|---|---|
速度(cm/秒) | 62.1±19.9 | 60.1±20.7 | -2.0±9.4 |
デュアルタスクコスト速度(%) | -17.6±12.2 | -16.2±9.3 | 1.4±11.4 |
ケイデンス(歩数/分) | 83.6±14.6 | 83.7±14.6 | 0.1±3.9 |
歩行時間(秒) | 1.47±0.25 | 1.42±0.19 | -0.05±0.15 |
歩幅(cm) | 83.7±18.7 | 85.3±17.6 | 1.6±6.3 |
2つ目の課題にてCDTTグループでは、トレーニング前と比較して歩幅が増加し、歩行速度の二重課題コスト(DTC)が改善しました。
その他の結果としては、MDTTグループで、3つ目の課題の運動二重課題の歩行パフォーマンスに関して、歩行速度、DTC 速度、および歩幅において有意な改善が見られました。
CPTグループでは、トレーニング前の測定値から、歩行速度、ケイデンス、および歩幅で有意な増加が観察されました。ただし、CPT 後のモーターデュアルタスク歩行中の DTC 速度のわずかな減少は、標準偏差が高いことで減少した可能性があります。
臨床的解釈
今回の研究から示唆されることとして、脳卒中患者様において、高次脳機能障害が強く出現している方や、併存して認知症がある方にこの認知二重課題を取り入れてのトレーニングが必要になってくるかと考えます。
なぜならば、脳卒中患者様はバランス障害等の問題を抱えることが多く、その結果として歩行中に同時に別の課題を行うことが難しい状況に陥りやすいからです。
この研究では、認知的な課題と運動的な課題を同時に行うことで、歩行中に同時に別の課題を行う能力を向上させることができることが明らかになりました。
よって、高次脳機能障害のある方や、認知症を患っている方はこれらの課題を行うことで、パフォーマンスの向上に繋がるのではないかと思われます。
そして重要な点は、この研究でも言われている通り、従来の理学療法のみであると、歩行速度・歩幅・ケイデンスは向上しますが、これのみでは認知二重課題の改善にはつながらないということです。
だからこそ、これらにプラス認知課題も取り入れていく必要があるのではないかと考えます。
また、トレーニングの期間はどのぐらい必要かというところは少なくとも、4週間必要と思われます。
ただし、この研究でも言われているのですが、期間が短かったことが課題です。そのため、少なくとも4週間以上と考えます。
少しでも、参考までにご検討いただけると幸いです。
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参考文献
Cognitive and motor dual task gait training improve dual task gait performance after stroke – A randomized controlled pilot trial.Liu Y,2017