脳卒中後の肩関節亜脱臼と痛みの関係を解説

この投稿は、『〜脳卒中・脊髄損傷特化型自費リハビリ施設〜脳と脊髄リハビリ研究センター福岡』が日々脳卒中(脳梗塞・脳出血)や脊髄損傷、脳性麻痺といった神経疾患後遺症のリハビリテーションに従事する医療従事者の方や、当事者の皆様に向けて発信するエビデンス情報です。

ぜひ、明日からの臨床にお役立てください。

今回は、脳卒中後によく見られる肩関節亜脱臼と肩関節の痛み、この2つに関連性があるのかどうかについて解説して参ります。

脳卒中後の肩関節亜脱臼と痛みの関係を解説

脳卒中後肩の亜脱臼を呈する人の割合

2018年に海外で報告された、脳卒中後に生じる肩関節の亜脱臼は、「脳卒中患者の最大80%に影響を与える一般的な脳卒中後の合併症である。」とされています。

この報告同様に、2014年時点において肩関節亜脱臼は脳卒中に最も多い合併症とされていました。

このように、脳卒中後に生じる肩関節の亜脱臼はごく稀に見るというレベルではなく、脳卒中を患った方であれば誰にでも生じうる可能性のある病態となります。

この亜脱臼の原因として考えられている最も大きな要因として現在考えられているのは、運動麻痺によって肩関節を保持するための筋肉に収縮が入りにくくなる。ということが有力視されています。

脳卒中後肩関節に亜脱臼が生じるわけ

もう少し、亜脱臼のメカニズムについて詳しく解説していきます。

肩関節の構造をすごく簡単に解説すると、肩甲骨に上腕骨がぶら下がっている構造になっています。 故に、重力の影響で上腕骨は下に引っ張られやすくなっているので構造上亜脱臼しやすい状態になっています。

とはいえ実際にはそんなことが起きないように、靭帯や筋肉が上腕骨と肩甲骨がガチッとはまるように肩関節周りを強化しているのですが、脳卒中を発症するとこの構造に破綻が生じます。

具体的には、運動麻痺によって肩甲骨と上腕骨をガチッとはめるための筋肉が緩んでしまうのです。 その結果として、肩関節に亜脱臼が生じてしまうということが生じます。

肩関節の亜脱臼と痛みの関係

そうなると気になるのが、肩関節の亜脱臼と痛みの関係についてです。

結論から申しますと、必ずしも肩関節の亜脱臼が痛みを引き起こすわけではありません。

というのも、2011年に発表された「Underlying pathology and associated factors of hemiplegic shoulder pain」という論文の中に…

肩関節亜脱臼のある患者の約50%は肩の痛みを発症しなかった。脳卒中患者187人を対象とした最近の研究でも、痛みのある患者とそうでない患者で亜脱臼の有無に差がないことが示された。

とあります。

つまり、「亜脱臼があるから必ずしも肩の痛みが引き起こされる」というわけではないのです。

これは私たちが日々脳卒中患者様のリハビリテーションを進めていく際にもよく感じるところでして、亜脱臼がある人の中には肩の痛みを訴えない方も結構多いです。

「亜脱臼が痛みの原因である」という解釈になりがちな現状

このように、科学的にも実際の臨床現場でも「肩関節の亜脱臼が肩の痛みと強烈に関連しているわけではない」ということが示されている一方で、多くの方は「亜脱臼があるから方が痛いんだ」という認識もしくは解釈になりがちです。

これは、当事者の皆様だけではなく理学療法士や作業療法士にも同様に言えることです。

しかし、「亜脱臼があるから痛みが出ている」という解釈をしてしまうと、その他の要因で痛みが出ているという可能性を考えなくなることがあるのです。

もしくは、亜脱臼があるから痛みが出ているというのが強く結びつくと「亜脱臼が治らなければ痛みは引かない」という、痛みに対する誤った認識をしてしまう可能性もあります。

痛みに対する悲観的な認識というのは、痛みそのものを慢性化させる要因になると考えられているため、まずは「亜脱臼があっても痛くない人もいるんだ」という事実を知っていただき、そして良い意味で亜脱臼そのものを楽観的に捉えても良いかと思います。

もちろん、亜脱臼を改善することはすごく大切なことにはなりますので、あくまでも「痛みと強く関連しない」という点だけ押さえて頂けたらと思います。

なお、亜脱臼の治療方法については以下の記事で解説しているので、ご興味あれば併せてご覧ください。

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